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予防接種の背景にあるもの  


予防接種は、いろいろな伝染病(感染症)を予防するために行われることは、皆さんも良くご承知のことですが、感染症の中でも世界的に広く分布していて、私が「基本的予防接種」とよぶワクチン接種の対象となるものについて考えてみたいと思います。そこで「基本的予防接種」の対象となる感染症が、どの年齢の人達に感染するかを調べるために、1970年WHOが始めた「予防接種拡大計画」(EPIと略称)を開始する以前の途上国における感染症のデータを整理したものが、以下に示す表で、各感染症に感染した総患者数を100%として、0歳から、4歳までに感染した者の総数が、全患者数の何%になるかを示してあります。この方法で、ある感染症に感染した患者総数の中、どのくらいが4歳までに感染しているかを知ることができます。この表から、0歳児で感染率の高いものは「破傷風、百日ぜき、ポリオ」の順ですが、0歳では、「破傷風」は全患者数の70%が感染、「百日ぜき」は45%、ついで「ポリオ」は35%、「ジフテリア」10%、ついで、「麻疹」15%、「おたふくかぜ」5%「水ぼうそう」10%となっています。4歳までには、「破傷風」は全患者数の80%、「百日咳」70%、「ポリオ」85%、「ジフテリア」70%、「麻疹、おたふくかぜ」各55%、「水ぼうそう」45%となっており、感染者の大部分が幼児期であることが判ります。「風疹」についてのデータは入手できませんでした。

伝染病の発症率 (各感染症の全患者数を100%として示してある)

感染症名
年齢
0
0〜4
破傷風  
70
80
百日咳
45
70
ポリオ 
35
85
麻疹   
15
55
ジフテリア 
10
70
水痘  
10
45
おたふくかぜ
5
55


● 感染症に対する「免疫機能」

感染症に対する免疫を考えると大きく分けて4種類あるといえます。
1. 母親が持っている免疫抗体を、出産の際に新生児が胎盤を通して免疫抗体を受け取り、それぞれの感染症に対して免疫となるものを、以下「垂直免疫」とよびます。
2. 「予防接種」を受けて免疫となるものを、以下「自前の免疫」とよびます。予防接種を受けた体が自分の力で免疫となるという意味です。
3. 感染症に感染し、回復して免疫となったもの。
4. 母乳、扁桃腺などから分泌される、免疫体の一種を飲む乳児は下痢が少ない。

それぞれを簡単に説明する:
1「垂直免疫」;
母親が「ジフテリア、破傷風、ポリオ、麻疹、おたふくかぜ、風疹、水ぼうそう」などの免疫になっていると、それらの免疫抗体を出産の際、胎盤を通して新生児に与えますが、新生児が受け取った免疫抗体で、免疫力を示す期間は大体4〜5ヶ月間ですから、幼児が予防接種を受けて、自前の免疫を作ることができるようになる生後12ヶ月までの約7〜8ヶ月間は、「麻疹、風疹、おたふくかぜ、水ぼうそう」などのウイルス性の感染症に対する免疫力はないことになります。但し麻疹については、生後9ヶ月から自前の免疫を作ることができるといわれています。
従って衛生環境の悪い途上国に同行する幼児は生後12ヶ月になって「麻疹、おたふくかぜ、風疹、水ぼうそう」の予防接種を受けてから渡航するのが賢明でしょう。「垂直免疫」で非常に重要なことは、途上国で出産する場合に、母親が破傷風に対して充分な免疫をもっていないと、免疫抗体を新生児に与えることができず、「新生児破傷風」が起きる恐れがあり、これが「垂直免疫」の最も重要な役割と言えます。新生児破傷風は、出産の際、消毒不十分な器具で"へその緒"を切断することにより、破傷風菌が侵入し、7日以内に起きる感染症で、死亡率は100%と言われております。

2.「自前の免疫」;
ワクチンには、「不活化ワクチン」と「生ワクチン」の2種類があります。
(1) 不活化ワクチン
ワクチンの成分にいろいろな処置をした結果、注射しても被害を与えることなく、免疫を作るワクチンのことを呼びます。
「不活化」ワクチンは、ワクチンとその対象となる感染症の免疫抗体を同時に接種しても、ワクチンの免疫産生力に影響を受けません。例えば,B型肝炎ワクチンと、B型肝炎の免疫グロブリンを同時に接種しても、不活化ワクチンであるB型肝炎ワクチンの免疫産生能力に変わりはありません。同様なことは狂犬病ワクチンと狂犬病免疫グロブリンの同時接種についても言えることです。

(2) 生ワクチン
生きている細菌またはウイルスで、人に注射または飲ませると体内で増殖し、免疫を与えますが、細菌やウイルス本来の病気は起こさないというものです。生ワクチンで得られた免疫は、不活化ワクチンの接種で得られた免疫より一般に長期間続きます。

3.「感染症に感染し、回復した人の免疫」
免疫力はワクチン接種で得られたものより強くて長く続き、殆ど再感染することはありません。「破傷風」は例外で、感染後、回復しても免疫にはならず、予防接種のみが、免疫を得る唯一の方法です。

4. 前述したものです。

● ワクチンは2つのグループに大別することができます。
感染症には「世界中に広く分布し、人に被害を与えている」ものと「世界の一部の地域だけに分布していたり、一部の職業の人達や、特別な生活環境で人に被害を与えている」ものがあります。「世界中に広く分布している感染症」は世界の何処でも(先進国、途上国を問わず)予防接種をする必要があり、そのために使用するワクチン類を「基本的予防接種のワクチングループ」とよび、これに対し「一部の国、職業、生活環境」などに依って必要な予防接種のワクチン類を「補足的予防接種のワクチングループ」とよびます。世界の何処へ行っても「基本的予防接種」を受け、更に必要に応じて「補足的予防接種」を受けるという原則を、1991年に出版した「海外で健康にくらすための手引き」で提言しました。2002年のWHOの年刊書 International Travel and Health (ITH)で初めて、ワクチン類を以下のような2つのグループに分けて示してあります。

旅行者のためのワクチン類 (日常行われる予防接種)
三種混合 (DTP)、B型肝炎 (HBV)、b型インフルエンザ菌(Hib)*
麻疹、または、麻疹、おたふくかぜ、風疹の三種混合(MMR)*、ポリオ生ワクチン(OPV)または、ポリオ不活化ワクチン(IPV)
旅行者のために選択するワクチン類 
コレラ、インフルエンザ、A型肝炎、日本脳炎、ライム病*、流行性髄膜炎*、肺炎球菌症*、狂犬病、ダニ脳炎*、結核(BCG)、腸チフス*、黄熱
* = 日本国内では通常接種できない


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