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![]() 8月にはじまる「住基ネット」とは、
徹底した監視社会の一歩なのです ![]() |
声高に言うのは、よそう。 まず、自分の問題として考えてほしい。 生年月日、住所にはじまって、所得も病歴も学歴も、果ては犯歴さえもが1枚のカードに記録され、国に管理される。そんな社会を、あなたはのぞんでいますか。 遠い先の話ではありません。8月にはじまる住民基本台帳ネットワークシステムとは、徹底した監視社会の第一歩なのです。 |
ジャーナリスト 海野 幸
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「こんなのやられたら、そのうち俺は国外へ行けなくなるよ」 本題に戻ろう。
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住基ネット……赤ちゃんを含めた国民一人ひとりの住民票に、11桁の異なる番号(住民票コード)をつける。 また、こうした全国共通の本人確認システムを築くことによって、雇用保険、児童扶養手当の給付や資格登録などの行政事務を効率化できる、としている。ただ、システムをつくるのに365億円、維持費が年間190億円という莫大な費用を投じるからには、それだけでは終わらない。さらに大きな網で国民を捕捉しようと考えている。 8月5日のネット開始時点では、上記の各種手当の給付など93の事務に限って、住民基本台帳の情報を利用できることになっている。政府はこれにパスポートの発給、年金の支給、不動産登記など171件の事務手続きを加える改正法案をつくり、6月に国会へ提出した。今回は、プライバシーを侵す危険性の高い、この住基ネットをはじめる前提としてつくられた個人情報保護法案に対し、表現・言論の自由を侵害しかねないとの反発が吹き出したため、住基ネットの利用を拡大する法案の審議は見送られた。が、住基ネットの利用を拡大する方針に変更はない。
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監視、管理する側の欲望には際限がない。 官僚の暴走は、すでに危険水域をこえている。この国は「主権在民」から「主権在官」へと大きく舵を切っており、民主憲法に安住などしておれない状況である。住基ネットが動き出せば、「学習」と称して何かと「愛国」を押しつけ、異端者狩りにおいては先輩格のお隣の大国をしのぐ「管理・監視大国」になるのは間違いない。 番号制が導入されたら借名口座や仮名口座の開設はもちろんできないし、金融機関に分散している預貯金や株式口座もすべて把握される。財務省は納税者番号を導入するにあたり、先行する住民基本台帳や年金番号などと接続させたい意向である。これらが結びつけば、わたしたちの生活は丸見えとなり、(官が求める)国民としての義務を果たせない人は、コンピューターによってすぐにあぶり出されてしまう。 冒頭に紹介した、ソフト会社を経営する知人の心配も、そこにある。外国へ行くときに入管がパスポートの照会をしたところ、税金の滞納まですぐにバレて税務署へ通報される、なんてことも起こらないとは限らない。少なくとも、システム的にはいとも簡単だ。
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住基ネットを始めるにあたってもっとも心配なのは、情報の漏洩だ。 「外に情報がもれることはないから大丈夫」と政府は言うが、コンピューターの世界に「絶対安全」などありえない。 ホームページに「日本人は歴史の真実を直視する勇気のない民族で、アジアの恥」と書き込まれ、なすすべもなかった政府のいう「絶対」を、だれが信じられよう。当時の厚生省の担当者は正直に「セキュリティーに完全はない。狙われるかどうかだ」とコメント。青木官房長官も「完全に防ぐことは難しい」と認めている。 アメリカの国防総省やCIAのシステムさえもハッキングされているのだ。お粗末な中央官庁に自治体まで加えたシステムを不安に感じるのはごく普通の感覚である。
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漏洩の心配は、ハッカーに限らない。 中央省庁と北海道から沖縄まで全国の市区町村が一体となったシステムなので、ネットワーク化されたデータに触れることのできる者は、全国では膨大な数に上る。担当職員を限定し暗号、パスワードを使ったとしても全端末まで安全を確保するのは困難である。悪人は1人いれば十分、それで国民のデータを引き出すことができる。 住基ネット反対運動に早くから取り組んでいる日本弁護士連合会の調査によると、住基ネットの担当者でコンピューターに精通している人材がいる、と答えた自治体は全国でわずか13%にすぎず、民間業者に頼っているのが72%にのぼるという。コンピューター音痴であるがゆえに、最重要秘密書類であるネットワーク構成図が無造作に扱われているケースもある。 業者への委託といえば、京都の宇治市では電算化された21万7600人分の住民基本台帳のデータが流出し、名簿業者によってインターネットで販売されるという事件がおきている。システム開発にかかわった情報処理会社のアルバイトが業者に持ち込んだものだ。いとも、簡単にプライバシーにかかわる市民の情報が流出している。 2年前、情報公開された三重県四日市市の住民基本台帳の閲覧者名簿をみると、1999年度に閲覧申請のあった73件のうち44件は業者がダイレクトメール発送の目的で名前、生年月日、住所、性別の個人情報を調べたものだった。年金受給者勧誘のために閲覧している銀行もある。残りは報道機関が世論調査などのために閲覧した例が多い。 全国の名簿業者は弁護士・医師・公認会計士・税理士などの資格取得者や各会社、役所、教職員、高額納税者、ゴルフ会員、同窓会など何百種類もの名簿を集め、既存の住民基本台帳の基本データに加えて商売にしている。どこから流出したのか身長、体重、血圧などの身体検査の結果をもっている業者さえいる。各種カードの利用状況から個人のショッピングの傾向、趣味などもわかる。彼らはせっせといやになるほど詳細な個人情報を集めている。 住基ネットをベースに各省庁が自分たちの仕事の領域にかかわる個人情報の書き込みをどんどん増やし、それに業者が集めたデータが結びつけば、自分にしかわからない、いや、ときには自分でさえ正確に把握していない個人情報を見知らぬ人間にすべて握られてしまう。
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来年8月からは市区町村が希望者に住民基本台帳カードを配布する。 中央演算処理装置(CPU)とメモリーを組み込んだICカードで情報をふんだんに取り込める。自治体は独自に条例をつくり、本人の病状や健康診断結果などのデータを入力し健康管理カードの役目を持たせたり、図書館や福祉施設などでの利用カードに使ったりもできる。 今のところ、必要としない人には配布しないことになっているが、カードがないと役所の窓口でじゃけんに扱われ、様々な行政サービスが受けにくくなることは容易に想像できる。いずれ国内パスポートとして常時携帯、所持が義務化されるだろう。 ところで、利便性を追求して市民に写真付きICカードを持たせた「先進」自治体がある。島根県出雲市で、アメリカの証券会社にいた野心家の岩國哲人氏(現民主党代議士)が市長時代に、自治省や厚生省の支援も受けて実施した。 「現代のお守り」と岩國氏がPRした「福祉カード」には、緊急連絡先や薬の副作用歴などが書き込まれていたが、医師、市民双方から不評だった。医療機関にとっては、緊急事態にはカードのデータを見るより早く現実的な対応を迫られる。入力にも手間がかかる。利用する側には、プライバシーが漏れるのを心配して既往症を書き込まない人もいたようだ。常時携帯もわずらわしい。91年にはじまったが97年に廃止になっている。 「児童カード」も発行し、アレルギー歴や、家族の既往症、学校診断の結果などを入力していたが、これも廃止になっている。 「ひとことで言えば破綻です。理想と現実には大きな開きがありました」 住基カードについては、もう一つ機能面の心配がある。「非接触型カード」が採用される見通しだが、これは駅の改札などで見かけるようにカードをかざすだけで情報が読みとれる便利さはあるものの、セキュリティーの面からは多いに問題がある。悪意をもってすれば、通勤などの人込みや会合の席などでポケットや鞄の中にしまってあるカードからデータを読みとることは技術的には可能である。
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これまで、住基ネット構想について、その機能とセキュリティーの面からみてきたが、最後にネット推進の背景と法律的な手続きについて触れておきたい。 改正住民基本台帳法が成立したのは1999年8月。自民・公明・自由などの賛成多数で可決された。このとき同時に捜査機関に電話などの盗聴を認める通信傍受(盗聴)を含む組織的犯罪三法も成立している。99年という年はほかに、この国の近未来を方向づけるガイドライン関連法、国旗国歌法、憲法調査会設置法などが一気にできている。有事に備える国家の再編である。 率直な物言いが持ち味の自由党の小沢一郎党首は、住基ネットの法案が通る直前、経団連での講演で「政府は安全保障や治安維持には使わないと言う。そこに使わないと何のためにやるんだ。正面から『治安維持のために必要だ』『プライバシーを守るために厳重な乱用禁止の規定を設けます』と言えばことが足りる」と語っている。 ただ、小沢氏が講演で話したように、国民のプライバシーにかかわる住基ネットの施行にあたっては、事前に「個人情報保護法」をつくる必要がある、ということで3党は合意した。 当時の小渕恵三首相も「実施にあたっては、民間部門をも対象とした個人情報に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが前提であると認識している」と答弁している。首相の答弁内容は、改正住民基本台帳法に附則第一条のAとして書き込まれ、法律になっている。 ところが、ご存じのように今国会では、政府が強引に通そうとした個人情報保護法案がメディア規制法だとして世論から大批判を浴びた。法案の内容は、保護どころか、国家による個人情報の管理、専有である。情報の取得方法や内容の是非について、官僚に判断権があり、あいまいな条文は憲法で保障された言論、表現の自由を侵害しかねない。与党からも反対が多く、法案を再検討する方向に進んでいる。
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住基ネット施行の前提であった個人情報保護法案が不成立となれば、8月からのネットの施行も当然やめるのが道理である。 ところが、福田官房長官は五日の記者会見で「全国の自治体が予算措置まで行い、作業をしてきた。これをさらに延ばすと自治体に迷惑をおかけする。金銭的な損害も与える」と語り、実施する構えを崩していない。福田氏は国会での野党の質問にこうも答えている。 官僚がつくった作文を読み上げたのであろうが、言論の府の国会でこれほど国民を愚弄する発言が許されていいはずがない。与党の合意があり、ときの首相が国会で再三答弁し、それが法律にもなっている。それで、どうしてネットワークを動かせるのだろう。官僚たちは、自分たちの都合を通すために、首相の発言を軽んじ、独自の解釈で法律破りも平気でやる。 「国民共通番号制に反対する会」の代表でジャーナリストの櫻井よしこさんは「究極的には、国民の個人情報を一元的に国が管理することになる住基ネットを国民を欺いてでも実現しようとするのは、彼ら(官僚)が情報こそ力の源泉だと知り抜いているからだ。だから、国民の個人情報の取得、集積、一括管理のシステム構築にこだわり、他方でメディア規制を強める法律づくりを目指すのだ」(朝日新聞・「私の視点」)と指摘している。
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反対する会には、自民党からも同調の動きがでてきている。 四日に都内で開かれた集会には亀井静香・前政調会長ら自民党の22人を含む超党派の国会議員68人(代理を含む)が参加した。 亀井氏は「国がすべてを管理していくというのは民主主義の国家の基本的な点に触れる」と批判。さらに、別の講演で「小渕さんは、個人情報保護法案できっちりした処置をとらないで住基ネットを実施することはしないと言った。それをしないで実施するというほどばかげたことはない」と話している。中川昭一・自民広報本部長も、反対の会が求めた延期に賛成する署名を行っている。一緒に署名した前大蔵政務次官の塩崎恭久氏の弁も明快である。「延期論の方が筋が通っている。個人情報保護に関して政府が信用されていない。住基ネットも国民に理解されていない。国民の理解が得られる個人情報保護を制定し、周知すべきだ」 亀井氏らの動きは、とかく政局と絡めて論じられがちだが、官僚の暴走をいさめる主張は的を射ている。 一方、番号制度をつくっている国でも疑問の声が出ている。
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住基ネット法の施行反対には、官僚統制国家の道を歩みはじめたこの国を、わたしたちの手に引き戻すという意味合いがある。 民主主義の国の主役は、官僚ではなく、国民である。 少しだが、私たちにはまだ時間がある。 2002年7月15日
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「住基ネット」関連リンク
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■国民共通番号制に反対する会 |
■住基ネット8月5日実施を許さない実行委員会 |
■総務省<住民基本台帳ネットワークシステムの構築> |
■住民基本台帳ネットワークシステムに関する地方自治体アンケートの最終報告 「日本弁護士連合会」 |
■住民基本台帳ネットワークシステム全国センター |
■本格的に動き始めた電子政府・電子自治体 |
■地方公共団体コード住所一覧 |
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