2年前に来米し、現地の高校に通う9年生の娘がいます。2年間頑張ってESLを取ってきましたが、未だ会話もあまり伸びず、聞き取りもうまくできません。特に発音が悪いので先生から何を言っているのかわからないと指摘されました。本人は傷ついて、授業ではひとことも話さず、アメリカ人の友達もできにくい状況です。なんとか学校には通っていますが、本人がかわいそうでなりません。どういったことをすれば上達するのかアドバイスをお願いします。 (ミシガン州、母)
言語習得には、いわゆる「クリティカル・ピリオド」という期間があります。これは生まれてからおよそ10歳前後までを境にして、これを過ぎると言語を吸収し覚えるのが困難になっていくという期間です。もともと生まれながら人間が持っている言語習得脳の機能が低下し、習得がだんだん遅く、かつ難しくなっていくというものです。この説が一番あてはまっているのが「発音」の分野においてだと言われています。確かにまわりを見てみると、幼児から小学校低学年にかけて来米した子供達の発音はネイティブにかなり近いものがありますし、反対に中学生ぐらいから来米した子や大人は、必ずと言っていいほどアクセント(なまり)があるのが現実です。しかし発音以外では、高学年以上で来米した子のほうが論理的な思考が発達しているので、文法や単語はむしろ低年齢の子よりも効率よく学ぶことが可能です。一方聞き取りや発音はイントネーションやリズム習得なども関係しているので、年齢が低いことや、耳が良く、特に音楽的なセンスがあることが上達する要素とも思われます。
さて娘さんの場合7年生で来米したのであれば、先述の「クリティカル・ピリオド」を超えてから実際の英語に触れ始めたわけです。よって発音はもちろん難しい分野となりますが、上達は充分可能です。あるデータでは、一つ一つの音をちゃんと学ぶことも大事ですが、文全体の抑揚やリズムを良くしたほうが、ネイティブにはかなり理解してもらえる、という結果が出ています。日本語は音節を中心とした言語ですが、英語はストレス(抑揚の強い箇所)中心で前後の上下関係やリズムが決まる言語です。基本的に日本語とは全く違うタイプのリズムなので、どこにストレスを置き、どういったリズムを文全体に作るかを学ぶのが重要です。例えばESLでも音楽と噛み合わせた学習法などもありますし、また演劇など抑揚指導を受けられるようなキャンプに参加してみてもいいでしょう。今はまだ困難でも、どんな生徒でも現地校に通って3年から4年すれば、英語はある程度流暢に近い状態に到達するはずです。またアクセントはネガティブに取られがちですが、結局その人の個性、文化的バックグラウンドを象徴したものです。カリフォルニア州知事のシュワルツネガーや、アカデミー賞を受賞した女優のペネロペ・クルースもアクセントがひどく、時々ジョークの種になったりしています。しかし頑張ってここまでの社会的達成を遂げて、逆にアクセントを堂々と自分の英語として披露しています。考えてみれば、英語は我々にとって外国語なので、アクセントは当然のこと。これをある意味で我々のアイデンティティとして捉えつつ、それと同時にまわりに理解してもらえる英語のレベル達成を目標に頑張りましょう。
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2008年7月15日発売