【Fami Mail】 特別寄稿連載 帰国子女子育て記



帰国子女となった子供と共に歩んだ15年

目次                                          海外赴任アドバイザー
        
 黒川 美佐子 
(英国4年半・中国1年半在住)

著者HP>海外帰国子女受験体験記
第2回 海外赴任ーありのまま自然に暮らそう


 
タイ王国大使公邸にて中国を思う



 新緑の美しい季節となりました。

 先日は、タイ王国大使館でタイのお正月を祝う「ソンクラーン祭り」に参加し、素晴らしいタイの文化とお料理、そして、優雅な佇まいの大使公邸と風格のある日本庭園を堪能しました。

 写真は、大使が挨拶をしているところです。スマトラ沖地震の際には、日本人の方からの多くの温かいご支援をいただき、感謝しています、という        タイ大使公邸ータイのお正月を祝う
内容も含まれていました。           (写真をクリックすると画像が大きくなります)            
                            
 タイでの駐在経験を持つ方が、タイ料理の解説をしてくださったのですが、今でも急にタイ料理を食べたくなり、ふらっと、仕事帰りにタイ料理店に立ち寄ることが結構あるそうです。「これが、一押しですよ!」と紹介してくれたのが、ソムタムタイという青いパパイヤのサラダです。そのサラダをほおばるやいなや、この方の口から自然に出てきたのは、この言葉です。

 「あ〜、おいしいな!」
 
 この心からの一言から、この方の駐在生活が如何に充実していたか、良い思い出に溢れているか、そしてタイ王国を如何に大切に思っているかが一目瞭然でした。同じように、英国で育った我が子達も、あのフィッシュアンドチップスやベークドビーンズでも、きっと懐かしく、「あ〜、おいしいな!」 と心から思うに違いありません。



     タイ王国の文化ーカービング              タイ王国の料理ーお菓子


 写真背景にあるタイ王国大使公邸は、元満州国皇帝溥儀の弟である愛新覚羅溥傑氏に嫁がれた侯爵嵯峨実勝長女、嵯峨浩さんが、嫁ぐ日までお住まいになられた館です。お二人は、この館で、お見合いをされたそうです。愛新覚羅溥傑氏に嫁がれた嵯峨浩さんは、どんな思いでこの邸宅から異国へお嫁に行かれたのでしょうか・・・

 今でも、近くて遠い国、中国・・・ 
 
 その中国、大連に在住していた頃、旧満州鉄道に乗って、大連から瀋陽まで旅をした事がありますが、その帰路に出会った中国の方は、日本に赴任するために、まさに、この列車に乗り込む所でした。

 私がたまたま見かけたのは、駅のホームでの、その方の家族との別れのシーンでした。その方は、幼い我が子を抱きかかえ、妻とは見つめあうだけ、親や親戚は、距離を置いて静かに見送っていました。そういうシーンは、今の日本では、映画やドラマでしか見る事がないような、そんな、もの悲しい別れのシーンでした。

 中国大陸を北上する旧満州鉄道の線路は、ほとんどまっすぐ。線路沿いには、どこまでも、日本人が植えたアカシアの並木が続きます。アカシアの花咲き乱れる中、車中で出会ったこの方は、当時の中国には大変珍しい、日本語も英語も堪能、という西洋医学を修めた医師でした。でも、日本では、輸出入に携わるお仕事をされる、ということでした。任期などは決まってなく、単身赴任だそうです。

 「中国の方が海外赴任する場合は、職業も自由に選べないのか・・ 
  私達日本人が海外赴任をするより、はるかに大変なのだなあ〜」
 
 車中、そんなことを思いながらも、家族と別れたばかりなのに、その方が、バッグに忍ばせていた、研究テーマである染色された血液像のスライドを流暢な日本語で説明してくださる様子に、つい魅せられてしまったことを、ふと、申し訳なく、恥ずかしいような気持ちで思い出しました。


 
意外と「強い」母としての自分を知る

 高尾山には、薬王院というお寺があります。そこで、見かけた言葉を紹介させていただこうと思います。

 それは、つもり違い10ヵ条の一つでした。

 「弱いつもりで 強いのは 我」

 平和な日本では、我が子が、人並みに健康で、また、周りとも問題を起こさないような「普通の子」であればあるほど、母としての「子供を守る本能」を意識した経験を持つ人は少ないの       タイ王国大使公邸ー日本庭園
ではないでしょうか?               

 でも、海外に暮らすと、子供が病気をしたり怪我をしたら、本当にこの処置でよいのだろうか?この病院で大丈夫なのだろうか?と、どんなに日本人の間で評判が良くても、不安に駆られるものです。最終的には、自分には、乏しい経験しかなくても、本当にその判断が正しいかどうかもわからないまま、やむを得ず、動物的勘のようなもので,病院や治療法の選択の決断をすることになる、と思います。


 このように海外で生活していると、いろんな場面で、自分の知識と経験を総動員して、子供を守らなければならない場面に度々遭遇します。子供が歩ける道を切り開き、環境作りを整えた後は、子供が道を間違えないように、そっと見守る。そして、我が子のためなら、「強くなれる自分」に気が付く・・・

 「弱いつもりで 強いのは 我」
 
 私は、最初の駐在地大連で、我が子のためなら、強くなれる自分を知りました。そのことに気が付いたことが、英国でも、自然に子育てをすることができた第一歩だったかな・・・と、今、自分を振り返ってみて思います。


 親が子供の環境を整える

 ある日、突然、というのが、海外赴任。

 日本なら、自然に心赴くまま選択できていた住居や食生活の全てが、海外転勤により、突然、不自由な状況に身におかなければならなくなります。
 「何からどう考えて決めていけばよいのか、さっぱり、わからないよ・・」
 誰もが、まずは、そう戸惑うのが、普通だと思います。

 でも、選択の幅が非常に少ない場合でも、自分達で何かを決定できる「幸せ」を一つでも与えられたなら、是非ご自分の意思で、お子様のために、「環境を整える選択」をしてみて欲しい、と思います。

 前任者がそうしていたから、とか、知人に勧められてよさそうだから、という選び方ではなく、本当に、我が子に必要な環境は、何なのか?とよく考えて、自分達が、ありのまま自然でいられる暮らし方を選んでみて欲しいと思います。

 物を選ぶときに、私達は、どんな基準を持って選ぶのか?どういう物の見方をするのがよいのか?その選択の方法の一つの例として、次男の中学校の京都・奈良の古都研修旅行を、紹介させていただきます。

 その研修旅行は、時代ごとに日を追って計画されていました。自分の足で歩き、自分の眼で見、小高い丘や山など全体を高いところから眺め、そして最後には、博物館・資料館などで、その日一日の体験を整理し、知識として蓄積させる、という流れで、3泊4日の全行程が計画されていました。


 視点を変える 
 
 多方面から物事を客観的に見て、新たに、構築する作業・・・
 
 駐在を始めるときにも、ちょっと面倒だけれども、これと、同じ作業が必要なのかな、と思います。

 駐在するときに、選択の基準を知るために思いつくのは、勤務先から紹介される海外赴任セミナーに参加してみるとか、ご近所の方で海外に住んでいた方から話を聞くとか、関係HPを検索してみるとか、そういうことでしょうか。

 経験者から話を伺う時は、自分と似た立場の人の話を聞くことももちろん大切ですが、違う立場の人の話を聞くこともお勧めします。

 同じことを経験しても、一時的に暮らす駐在家庭の人と、永住を視野に入れて暮らしている人では、違う視点を持っているので、双方からの話を聞くことが、自分達がこれからどのように暮らしていけばいいか、を知る手がかりになります。特に、自分とは、違う状況で暮らしている人の話を聞くと、自分の中で、物事を比較しやすくなり、最良の選択をしやすくなります。

 一時的に苦労しても、たとえ、子供に英語が身に付かなくても、帰国すれば日本人としての生活が母国でできる駐在員と違い、その土地に腰をすえて暮らしながら、多くの駐在員家庭とすれ違い、その良いところも悪いところも見てきた、永住を覚悟している日本人達・・・彼らのアドバイスがなかったら、我が家の英国生活も、子供達の未来も、全く、違っていたものになっていた、かもしれません。

 我が家が英国に駐在した際、違う考え方、立場の方から、住居や学校を決める前に、貴重な経験、ご意見を伺えたのは、本当に運が良かったのだと思います。また、出会えた皆様には、心から感謝しています。



 
2ヵ月もかかった巣作り

 我が家の場合、渡英してから知人を訪ね歩いたのが、約1週間。住む地域を決めて、家を決めて、引っ越すまでには、それから約2週間。学校を決めるまでに、また1週間。

 事前に住居も決めずに、家族で「せいの〜!」と、行き当たりばったりに渡英したのは、学期途中だった11月の初めでした。

 幼いなりにも、子供達が作り上げていた友達との関係、大好きな家、おもちゃ、日本での彼らの世界を全て断ち切って、父親の仕事により、子供達はいきなり英国に住むことになりました。だから、この国で暮らして楽しかった、この国に来てよかった、と思うことをたくさん経験させてあげたい、と思いながらの、環境作りとなりました。

 9歳と5歳の2人の子供達が英国の現地校に通い始めたのは、翌年の1月から。学齢期の子供にとっては、2ヵ月間の大きな損失でしたが、その後の子供達の成長を思うと、このくらい時間をかけたからこそ、のちに、得たものも大きかった、と思います。

 次回は、何をポイントに英国で学校選びをしたか、様々な立場の経験者からの話を聞くことにより何を得たか、を、私のつたない経験を思い出しながら、すこしづつ、ふり返ってみたい、と思います。


                                      2005年 5月15日

                                               つづく



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