| 洋の東西を問わず、芸術・文化を理解するには、それを生み出した時代の社会的・宗教的背景を知らないと充分な理解ができないといわれるが、それは芸術・文化に限らず 外国語の修得においてもそうであろう。 |
| 私たちは、日本で生まれ育ち 日本の社会的価値観・知識及び習慣の中で日本語を使用しているが、日本にいる限りそれで不自由無く 何らの問題をも生じない。つまり、日本の中でしか通用しない思考や認識のパターンと伝達のパターンのもとに言葉が成り立っていることに、当然の事ながら疑問を持たないのである。これが、外国語の修得をしようとする際に意外な災いとなることがある。私たちの受ける英語教育も、この日本的パターンに基づいてなされるため、言葉は覚えても、思考や認識、そして伝達のパターンを修得することが難しい。精神科医の太田博昭氏によると実は、これが海外渡航、特に海外生活をした際に痛感する"言葉の壁"である、つまり、"壁"の本質は言語そのものにあるのではなく、その背景にある思考や認識のパターンとそれらの伝達するコミュニケーションパターンの違いにあるという。 |
| 大学を卒業し、写真家になる勉強をしようとしたE子さんは、ニューヨークの専門学校に入学した。寮に入れなかったため 不動産屋を訪ねて適当な物件がないか探したが、予算的に1物件をふたりで借りる方式しか出来ず、このため他の人が契約したアパートを半分借りる「サブレット」の契約をした。見ず知らずのふたりが、ひとつのアパートを借りて生活することは、米国では一般的に行われることである。E子さんは、英語力に自信があり、さしたる不安を感じずにいた。
そこで半年ほど経過したある日、同居人のアメリカ人から突然出ていってくれと言われた。不満ではあったが論争を避けて 引越しすることにしたが、言わなくても返してくれると思った敷金を返してくれず、不動産屋に相談してもふたりの問題であると関与してくれない。半分あきらめて、他の不動産屋でアパートを単独で借りる契約をし、電話加入申込みの手続きをしたところ、既にE子さんの名前で加入があり 3、000ドルの未払い料金が発生していると言われた。電話局で番号を調べてもらうと、サブレットしていた時のものであった。その場合には、電話の名義が、主たる借り主のアメリカ人であるべきであったが 連絡すると既に引っ越してしまったらしく行方がわからない。
困り果てたE子さんは、Jiデスク・ニューヨークに相談をした。 相談を受けたデスク担当者は、その対応策をアドバイスし、協力して対応、結果的にN.Yの電話局が3、000ドルの未払料金の責任がE子さんにはないことを認めて、この件は解決した。 |
| しかし、その頃から、E子さんの言動に異常が感じられ始めたのである。デスクに時々電話をしてきて、「肩がこるので、針灸師を紹介してほしい。」とか「眠れない。」と訴えるなかで、独り言を始め、「誰かが私を狙っている・・・」等と言うことがあった。
このため、担当者は、Jiキャッシュレス提携医を紹介し、針灸の前にその医師に診てもらうことを勧めた。その結果、E子さんの状態は専門医の治療が必要と判断され、その後、4ヶ月間の治療を受けることとなった。
E子さんは、日本での同様の症状での治療歴はなく、デスク担当の手配により治療費の支払いが直接保険会社から医師に対して行われ、自分では何も心配しなくて良いことになり久しぶりにホッとした表情を見せた。常に自己を主張し、権利を守り続けなければならない社会で疲れ切っていたときに、なつかしい日本の気働き社会(気を利かせることが非常に重要な社会)のサービスをみたからであろう。
E子さんは、ニューヨークに来て4ヶ月ほど経った頃から、時として気持ちのコントロールができないことを意識し始めたという。次第に 極端に鬱な状態と 感情が高ぶり錯乱した状態が現れるようになり、食欲もなくなり、医師の治療を受けたときには週に3、4回症状が出現しており、それが1回につき3、4時間続く状態であった。医師はE子さんに 自分の感情を客観視し認識するためのデイリーレポートを書かせ、それをもとに 1
回につき2、3時間ほどのカウンセルを行った。 つまり客観的な原因分析とその理解をさせることによる自律訓練法に基づいた治療を進めていった。すこしづつ安定を取り戻していったE子さんは
医師のアドバイスもあり、不安定になりそうなときにJiデスクに電話をして、日本語での会話により落ち着きを得たという。 |
| 現在は、ほぼ回復し、「もう大丈夫です。!」と力強いことばと共に再び将来に向けての勉学に勤しんでいるE子さんである。 |
| 日本にいて、日常良質で思いやりにあふれた気働き社会にどっぷりと浸かっていて、急に日本以外の国々で現地の普通の環境に入るときには、思考や認識のパターン、伝達のパターン等の違いについての充分な事前認識を持つことが心の健康を守る上で必要ではないだろうか。 |