NHKの大河ドラマ『功名が辻』で戦場に向う主人公、山内一豊に妻千代が「命のお持ち帰りこそ最大の功名。」と告げる場面が記憶に新しい。また巷では、映画『フラガール』が好評上映中である。軽やかで流れるような曲に乗ったフラダンス、またあるときは激しいリズムに乗った踊りと、あたかも人生の様々な局面を表わしているかのようでもある。ホノルルで、至福のときから一転して生命の危機に陥ったY氏は、その双方の局面を経験することになった。
3月3日、社員旅行でハワイに来たB社社長のY氏は ワイキキの浜辺で日光浴をしながら若い社員達の遊ぶ様子を楽しげに見ていた。東京での忙しい毎日が嘘のようである。幸せとはこういうことだと感じつつ腰を上げたY氏は、学生時代にトライアスロンをしていたことを思い出し、乗合ヨットで沖合いに出て海に飛び込んだ。そのとき海面に突入するときの抵抗で首が、ガキっと音がして呼吸が出来ないほどの痛みを感じ、そのままうつ伏せになって動けなくなったという。直ぐにヨットのクルーに助けられたY氏は意識があるものの横になったまま全く動けないため、無線で呼んだ救急隊により、浜辺からA総合病院ER に運ばれた。Y氏は、胸部から下は全く感覚が無いとの報告であった。診断の結果は 第5、第6頚頚椎骨折(Burst fracture)であった。CTとMRIの画像を検討した結果、緊急に手術が必要と判断され、翌日第5、第6頚椎の前方固定術が行われた。
事故直後病院のソーシャルワーカーから報告を受けた保険会社のJiデスクホノルルでは、Y氏の海外旅行保険契約内容をOn Lineで確認し、治療費1,000万円、救援者費用1,000万円のセットタイプであることがわかった。保険金額は大きいが、それでもケガの内容からすると不足する可能性が予想されたが、A病院に保険金額限度としての治療費支払保証を行った。同時にY氏には治療費が保険金額を超える恐れのあることを説明した。 その後Y氏は肺炎を併発したため、病院側の当初見込みでは1週間入院後チャーター機で日本へ搬送するという予定が延びた。そこで保険会社担当は日本の受入病院の医師に詳細の医療情報を送付し、また搬送を担当する医師と、現地病院の主治医がそれぞれ検討した内容をY氏に説明した。Y氏は、できるだけ早く日本に帰国入院したいというため、意向に添って準備し、肺炎の回復を待った。
米国の医療機関は営利産業であり、治療費が保険金額を超えた場合に、直ぐに支払方法を聞いてくる。15日現在の病院代は既に10万ドルと保険金額を超えている。Y氏は超過分を自ら病院に支払うこととした。なお、米国の医療機関は保険がある場合の減額には応じないのが原則であるが保険金額超過額については、減額交渉に応ずる場合がある。これひとつでも日本の医療機関とは違うことがわかる。
Y氏は肺炎も癒えて、17日にプライベートジェット機で医療クルーとともに帰国することとなった。翌朝7時に医療クルーが到着して、病院との引継ぎが手際よく進められ、クルーからも『患者を無事に送り届けるのだ』という思いがひしひしと感じられた。救急車でホノルル空港まで搬送し、代理通関で空港の裏から滑走路まで運び、チャーターした小型ジェットにY氏を搬入した。Y氏の目は「生きて帰れるのだ!」と涙が溢れていた。
保険金額を超過した場合の救援活動は大変に難しい。本件は超過額をY氏が当初から明確に負担する意志を示されていたので問題はなかったが、保険は大きな損害のためである。チャーター機で帰国することを想定した程度の保険金額でご加入されると、救助する立場としては自らの判断で最も、安全で適切で早い方法を取れるのであり、スムーズに進めることができる。 |