保険ここがポイント |
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昨年夏、外務省が海外安全情報を通じて『インドでデング熱が発生流行の兆し。』と警告した。このような警告が発せられて1・2ヶ月すると実際に罹患する日本人が発生し、保険請求がなされる傾向がある。このため南アジアからの事故報告に注意を払っていたが、ある大学のフィールドワーク研修の一行が関空発バンコク経由プノンペン行きの便でカンボジアに到着したのは9月初めであった。 一行はホテルに一泊した後、アンコールワットに程近いプレイベーン州リュブ村に入り、引率指導のT教授の指導の下で研修を始めた。ガスも電気も水道もない生活に学生諸君が以外に早く馴染んだことは驚きに値した。日本の若者も捨てたものではない。強さと順応性が高いのである。最初の障害と思われたことが順調に越えられ、予定のフィールドワークが始まった。その3日後にA子さんが、元気がないとT教授に報告が入った。様子を尋ねると食欲が無くだるい、とのことであった。念のため大学と保険会社で作成した緊急マニュアルに従い、保険会社のバンコク・デスクに報告を行なった。 担当よりT先生に「発熱はありますか?」との質問がなされたが、「特に無い。」と応えたところ、「状況に変化があれば再度ご連絡ください。」と案内があった。 T先生は、A子さんがソフトボール部のキャプテンであったことから、普段から人一倍元気であり、このまま直るだろうと思っていたところ、数時間後から発熱が始まり39℃になった。驚いたT先生は再度保険会社に報告し発熱を伝えた。 保険会社の担当は直ぐに熱病を予測し、緊急アシスタンス会社の専門医(コーディネータードクター)に確認と判断を仰いだ。その結果は、『デング熱の疑い』であり、急遽プノンペンの医療機関に運び、検査を受け治療することとなった。検査の結果、血小板と白血球の減少が見られ、その後の経過観察中には悪化傾向を示していた。現地病院の主事医Y先生は、これ以上血小板の減少があったら輸血をすると判断していた。A子さんは、Y先生の言葉を信頼してプノンペンの病院で治療をするつもりでいたが、コーディネータードクターの判断は異なっていた。 カンボジアの平均寿命は56.2才(FIDRのレポートより)、また、採血されたそのままの全血が輸血に使用されており、HIVの罹患率が15才以上の国民の3.5%(AMDA Journal 2003年2月号)である。また、国民の三分の一は一日1ドル以下で生活をしている環境である。現地の医師はこの輸血でA子さんの対症療法を行なおうとしていた。A子さんは、日本の医療文化の中で医師を信頼する感覚そのままの信頼感をY先生においていた。このため、現地での治療を問題ないと理解していた。保険会社では、コーディネータードクターの意見を基に、A子さんに、緊急搬送をしてバンコクの病院での治療を勧め、説得した。 プノンペンより医療用小型チャータージェットでバンコクのバムランラード病院に運ばれたA子さんは、3日間24時間点滴を受けようやく症状が改善した。1週間後、保険会社の派遣した救援チームが、回復して退院したA子さんを伴ってバンコクのドンムアン空港にチェックインし、関西国際空港行き出発ゲートに到着した。そのとき「ワーッ!」という歓声が上がった。T先生率いるフィールドワーク研修の一行がスケジュールを終えて帰国する、そのトランジットの場に復帰したのであった。このことを知っていたのはT先生だけであったが、他の学生さんは、『劇的な再会』と感激してA子さんを迎えた。帰国後、日本の病院で治療を受けたA子さんは、デング熱の抗体もなく、疑いだけであったことが確認された。デング熱は、最初に罹ったときより、抗体ができた後に再度罹患した場合の方が、死の危険が高い病気である。海外旅行保険会社は、どのような場合でも最も安全で、適切でスピーディーな方法で救助を行なうことを考える。このような場合に必要なことは一つだけ、チャーター機を使える程度に充分な保険金額に加入しておくことである。 世界の医療文化は地域により、又、国により異なる。日本の医師であれば、日本の環境の中における医療文化から妥当な治療方法を判断する。例えば、国民の平均寿命が84才であれば、それなりの判断をするが、それが半分の国で求められる医療はその重きを置く点が同じではない。これらを知ることは、個人のリスクマネージメントにおける重要なポイントである。 2007/6/25 |
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