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海外医療支援協会

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世界の医療文化比較 その3 
〜中国編〜



   中国の食品に関する話題がニュース番組や新聞紙上を賑わしている。しかし、中国をよく知る人からすれば全く驚くに値しない日常のことであるという。中国に駐在する人々から、「中国で暮らすためにお金は少しあればよいが、売られている食材の良否を見極める厳しい目を持たないと自らの健康を害する。」と度々教えられている。それが今、偶々ニュースとなっているだけである。スイカをインクで赤く着色したとか、肉まんに段ボールが入っていたとかが話題になっているが、日経ビジネスonline によると広東省では食塩の偽物が氾濫しているという。記者が広州市の食塩を販売する商店90箇所を調べたところ82箇所で偽物の塩を販売していたという。偽物の塩とは、亜硝酸塩などの工業塩で、少量の摂取で中毒になり、3グラムの摂取で死に至るほどのものという。また、精製中に重金属が残り、発癌性物質も含まれているという。これらが売られる理由は、『食塩の工場出荷額が1トン当たり2000元(約3万2千円)であるのに対し、亜硝酸塩は230元(3千7百円)であり価格が9分の1であるためであり、お金が稼げれば他人が中毒になったり癌になったりしても気にしない拝金主義がはびこっているため。』と述べている。

  金のために倫理感をなくした人が日本にもいるではないかと言われそうであるが、中国の歴代皇帝の大きな課題は、膨大な数の国民を飢えさせないことであったといわれる。中国の食料生産量と人口を比較してみるとこれは良く理解できる。中国では歴史的に残飯を捨てずに次の料理に活用するが、これは、限りある食材でより多くの人が飢えないようにする生活の知恵であり文化であろう。対岸の視点に立ち相手の文化を否定するだけの考え方が、歴史上どれだけのトラブルの原因になったかは枚挙に暇がない。それを単純に否定するのではなく、成り立ちを見極め、対策を立てて自らの身を守ることが肝要であろう。

  しかし、自らの命が危険に晒された場合は話が別である。東京都内の開業医の54才のA医師が西安郊外を観光していたとき、バスの最後部の座席に横になって休んでいた。そのとき子供が飛び出し、運転手は急ブレーキを掛けた。A医師は座席からわずか50cm下の床に転落しただけであったが、その場で四肢麻痺の状態になった。陸軍第三病院に運ばれ入院し、診察と応急処置の結果、脳神経外科の医師より「頚髄中心性損傷で、日本に帰国搬送するためには、頚椎前方固定術(頚椎の関節を動かなくするよう切除した骨盤の骨を頚椎横突起の両側に添え木のように固定する手術)をする必要があると説明を受けた。搬送途中で、もし頭が揺れて頚椎関節が動き呼吸中枢を圧迫したら死亡する可能性が考えられるからである。A医師は内科医であるが、その病院の設備、器材の使用・維持・管理状態、医療器材と医師の説明及び質疑応答の結果から、保険会社の担当者に自らの決意を伝えた。「ここで手術をしたら私は確実に死ぬ。途中で死んでも構わないから日本に運んでほしい。生きる可能性のあるほうに賭けたい。」と。保険会社の担当者は、患者が医師であり、意見を尊重したいが、途中で死亡したら損害賠償問題に発展しかねない。検討の結果、A医師の声を録音し、奥様とご子息(医師)の連帯保証で損害賠償請求権放棄確認書を提出頂き、日本まで緊急医療搬送を行なった。ストレッチャーの上で微動だにしないように固定し、人工呼吸器を用意しての困難な搬送であったが成功した。A医師は東京の病院に入院して半年間治療を継続したが、四肢麻痺の回復は見られなかった。海外旅行保険では受傷後180日で治療費用保険金支払限度となるため、後遺障害の診断を受けられた。 その結果、後遺障害保険金100%の支払を行なった。四肢麻痺は残ってしまったが、A医師は「あの時日本に運んでもらって本当に良かった。現地で手術を受けていれば、確実に死亡していた。」と喜んで頂いた。保険会社の担当は思い切ってA医師に、「何が現地での手術を止める判断をした理由ですか。」とお聞きしたところ、CTやMRIを使いこなせていないことの他に、日本で当たり前に行なうことが手術の手順の説明の中から抜けていたから。」と言われた。中国では、医師の数に比較して患者の数が極めて多く、死ぬ前にしか医師に見てもらえない人も多い。また、優れた医師が自らの知見を後輩に教える文化も無い。医師により治療費のランクが違うことは、事実である。優れた知見や医療技術は企業秘密に近いのであろう。医師は他の医師が商売上のライバルと見ているのであろうか。

  医学と、患者が実際に受ける医療とは必ずしも一致しない。現場の医療は、医学に加え経済的裏づけ、医師の数と患者数、施設器材、生活慣習からくる患者のニーズ゙、及び命に対する考え方等々によって影響される。中国で現地の人に受入れられる医療が日本人にマッチするとは限らない。中国の拠点医療機関の整備拡充は近年目覚しいものがある。しかし、先進医療機器が整ったからといって日本と同じレベルの治療ができるものではない。日本大学の酒谷先生の講演の中で、中日友好医院に派遣されていて、瀋陽人民病院に脳外科手術の指導に行かれたときの手術室の写真を見せて頂いた。そこには日本から輸出した手術室の設備の横に蠅タタキが写っていた。水洗トイレ等社会インフラの整っていないところでは同じ設備でも性能を発揮できない環境もある。海外旅行保険会社では、このような理由から、重大な手術の場合、運べるものであれば日本に運んで手術を受けて頂くべく、近年特にチャーター機の利用頻度が増加している。印象でも死亡率と後遺障害の発生頻度がちがうのである。事故処理を担当する立場から、いざというとき、チャーター機を利用できる金額の治療費・救援者費用保険に加入されていると、最も安全で最も適切で患者にとって負担の少ない方法を選択できる。 保険金額が小さかったり、カード付帯の保険だけでは、緊急時に際してできること極めて少なくなってしまう。世界の医療文化は、その違いがリスクであるといえる。

2007/7/25

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