5月12日14時28分、四川大地震が発生した。日本人のツアー客も巻き込まれたが、幸いにも迅速に帰国ができた。マスメディアによる被害速報は膨大な被害が予想される内容であり、各国から緊急支援の申し出でが相次いだ。しかし、これに対する5月13日の中国政府の声明は意外にも、「要員の派遣は当面必要ない。」とするものであった。支援の準備をしていた国々からすると拍子抜けではなかっただろうか。7月21日現在の発表では、死者69,197名、行方不明18,222名、負傷者374,176名という被害が発生している。支援の準備をしていた側から見ると重傷を負って現場に放置されている人々が多数いるに違いないと考え、その時点で最も求められているものは、現場での緊急対応能力であると判断していた。 しかし、中国政府が国際緊急援助隊の受け入れを発表したのは5月15日であった。これは瓦礫の下に埋まった人々を救助するには遅過ぎるとの批判もあった。その後、援助活動を提供する側の考えと受ける側の考えとに齟齬が見られ、日本の援助隊が四川省に入ったのはそれより1週間も後であった。また、日本の医療チームが活動を開始したのは被災現場近くではなく、四川大学華西病院であったことは記憶に新しい。

テレビ報道は、100時間も経過して瓦礫の下から救出された人の様子や、崩壊した学校の『おから工事』といわれる手抜き工事による崩壊現場、そして現地で医療関係者から治療を受ける人々の映像を繰り返し流していたが、疑問に思ったのは救出された人や治療を受けている人が重篤ではなく元気そうなことであった。このためマスコミはある先入観を持って取材しているのではないかと疑問を感じざるを得なかった。 つまり、大災害に対し中国は被害現場から救出する先進技術・設備が十分ではないであろう、また、医療的にも開発途上国であり十分なことが出来ないであろうから結果として先進国の緊急援助隊が活躍することになり、これにより関係者全員が満足する、という構図である。もしそうであればこれ程の大災害で、瓦礫の下から発見され救出される人がもっと大勢いたであろうし、また、治療が間に合わず現地で放置され、また救助を待つ人々が大勢いたであろうと考える。

しかし、中国は軍事大国である。軍隊は危機管理の集大成といえる。展開力とそれを支える搬送力を持ち、統率された活動ができる大組織である。世界有数の危機管理体制を持っているのである。また、中国の医療体制は年々発展し、主要都市には中核医療機関としての総合病院が数千床といわれるベッド数に高いレベルと医療設備を併せ持って展開している。加えて、西側の自由主義諸国と異なり、必要な場合、全国の医師や医療関係者、並びに施設を徴用することができることがある。今回はこれらを活用して初期の数日で被害者の救出と拠点病院への搬送を行ったものと考えられる。 第12回日本渡航医学会でAMDA代表の菅波理事長が中国の軍事力があったからこそ、このような対応ができたと述べておられた。

緊急援助を申し出た国々や、日本のマスコミはこれまでの開発途上国に対する救援援助経験からある程度先入観を持っており、また中国の危機管理能力を正確に評価していなかっいたのかもしれない。しかし、今の中国の医療体制の発展のスピードと危機管理能力に対して、軍隊を軍事力という面に捉われ、このような事態での事態収拾能力を見落としていたように思える。我々が各地の出来事を正確に知ろうとするときに、マスコミの報道は大きなよりどころになるものであるが、四川大地震の報道では、視聴者の関心や興味を引く場面を追い求め、中国の医療体制とそのレベル、並びに軍事力を背景とした危機管理能力とその活動結果を正しく評価する視点が充分であったであろうか。客観的事実の報道を求めるものとして、改めて考えさせられる出来事であった。

以上  

2008/8/5

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