地球温暖化が叫ばれる昨今でも冬のロシアは一部を除いてかなり寒い。サハリンでも屋外に出るときには心と服装の準備が要る。部屋の温度と屋外の温度が30度以上違うため、外に出るのが短時間でも甘く考えることができない。従って皆常に外の気温をチェックして服装も整える習慣を持っているという。室内では暖房により乾燥し戸外では極寒で湿度が低い、いずれにしても喉や肺を傷めやすくこれらを守る服装が必要である。また街はゴミが散乱しているので驚く。(が、これはしばらくすると慣れるそうだ。)大気汚染はひどく、主要な原因は車の排気ガスと熱併給発電所の排気である。また水道の水が飲めないことは他の国でもあり、別に驚くにあたらないが、食料品の衛生管理の常識が日本と全く異なることは、健康というより病気にならないための食材選びと調理に緊張を強いられる。食品は全て強く熱した上で食することが最低限必要であろう。 渡航医学の専門家に聞くとロシアの医師は、医療知識や技術の水準が低いとは思えないが、「日本の病院と比較すると医療器材や医療器具の更新が永いことなされていないように見える。」とのことである。地域の小さな診療所はそれぞれにあるが、外務省の医療情報によると「外国人が病気になった時は総合病院の救急外来に行くほうが良い。」と記載されている。英語は通じないので、必要であればロシア語のメモを持っていくと良い。ユジノサハリンスク市では主要な医療機関が3つあり、外国人も診療してくれるが、治療費はすべて現金払いで高額であり、ロシア語だけの対応である。なお、英語が通じるのはインターナショナルSOSが経営しているクリニックだけである。同SOS社に聞いたところ、このクリニックはサハリンで開発事業をしている会社の要請を受け、その社員の診療のために開設した診療所であり入院施設まではないが、会員向けの健康管理施設であるとのこと。企業は社員1名あたり年間いくらという会費を負担して維持しているという。外務省の医務官の情報でも、「現地医療機関の受診、治療は現状では緊急避難的な場合に限るべきで、原則日本に帰国して日本の医療機関を受診することを勧める。」という。総合病院でもCTや超音波診断装置あっても全体的に老朽化しているとのことであった。 このように寒いところでは、虫に噛まれることなど想像しないが、意外にダニに噛まれて発生する脳炎やライム病、リケッチアなどが発生するといい、結核も増加しているそうである。 我々がサハリンと日本との関係で思い起こすのは、やけどをして重体になった少年が札幌医科大学に緊急搬送され、無事命を取り留めて充分な治療を受けた後に元気になって帰国したことであるが、現在も緊急搬送を行うSOS社に聞くと、いざロシアの航空機で患者を札幌に運ぼうとするとこれが極めて大変という。ロシアからの飛行機が新千歳空港への着陸許可を得ようとするとなかなか下りない。何故ならば日本とロシアとの間では未だ平和友好条約の締結をしておらず、まして新千歳空港は航空自衛隊の基地でもある。このため、例え人道的な救援と言っても緊急搬送機着陸から帰国離陸までの滞在猶予は2時間しかもらえず、この間に札幌の病院まで患者を運んで引き渡し、空港まで戻って離陸することは困難を極めるという。しかし今、サハリン州では日本のレベルの高い医療に救いを求めている。それにも拘らず政治的な理由から多くの障害があり簡単な話ではないが、今日本の大学病院をはじめとする医療関係者と地方自治体並びにサハリン州政府とでは なんとかこれを乗り越え患者の救済につなげられないかと熱心な検討をつづけているそうである。 患者の救済の実績を積み上げ、政治的な課題もクリヤできる日が来るかもしれない。何れにしろ、チェルノブイリ原発事故後の甲状腺癌多発時も日本の医師の力で多くの若い女性が救われた実績がある。ロシア極東の重症患者を救うプロジェクトが成功するよう祈って止まないものである。 参考:以下はサハリン州に長期に渡航される場合の外務省提供の医療情報。かかりやすい病気・怪我
以上 2008/8/25 |
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