世界を金融危機に陥れる老舗の金融機関の破綻等があったと思ったら、ジェットエンジンに鳥が飛び込んだ旅客機は推力を失いながらも無事不時着水して全員無事生還し、また、未曾有の困難に立ち向かう大統領にオバマ氏が大歓声で迎えられた。まるで映画「ダイ・ハード」の延長を見るようである。米国は個人のレベルでも国家のレベルでもリスク・マネージメントや危機管理の先進国である。一旦事が起きたときの全ての立場、階層の人々が協力して対処する力は目を見張るものがある。その背景に、危機は起こるとの前提に立って考えていることに加え、どの役割にあたった人が何をするかを分かりやすく定めていることがある。Federal Emergency Management Agency (FEMA) と呼ばれる連邦危機管理局の定める対応マニュアルがあり、具体的・機能的に作られている。米国では、日常の物事でも一時が万事といえるほど、各担当者がやるべきことを文書化している。病院内においてもそれぞれの担当者の役割が明確にされている。医療のチームとして医師は医師の、薬剤師は薬剤師の役割を行い、それぞれの領域を侵すことは無い。また、看護師も同様である。それらの中でも又、役割と機能が細分化されていることは言うまでもない。このため役割外のことを求めてもそれには応じてもらえない。日本のように少々のことは担当外であっても応じてもらえたり、また少々理不尽なことを言っても許してもらえることはない。 当初、微笑みながら心を込めて対応してくれていると思ったが、気がつくと、人が代わっても言うこと、やる事、言葉遣い、そして微笑みも全て一緒なのである。Y社長は「これはマクドナルドと同じだ。」と思い当たった。老人に心を込めて親切に接してくれていると思ったら、どの患者にも同じであり、Y社長だけに特別ではないことに気がついた。各医療者はマニュアルに従って業務を行っていたのである。他民族国家であり、様々な習慣や価値観の人々により提供する業務を一定のレベルに保つにはこの方法しかないのかもしれない。 Y社長は、始めの10日間余りはトイレにも行けず、看護師さんの世話になっていたが、恥ずかしいと思うY社長をよそにてきぱきと対応してくれる。しかし、様子を見てきてくれるのではなく一定の時間ごとに来るようであった。英語に自信のあったY社長は「Don’t you want ・・・?」と聞かれたので、「まだ不要です。」と言うつもりで「Yes.」と答えた。すると看護師さんはさっと毛布を剥ぎ、世話をしようとした。Y社長はとっさに「いらん、と言っているのだ!」と声を荒げてしまった。 看護師さんは顔色を変え立ち去り、大問題となった。その結果ソーシャルワーカーからキャッシュレス対応を依頼した海外旅行保険会社の窓口に猛烈な抗議が来た。ハラスメントをされたと言うのである。そこで保険会社担当がY社長に確認すると「要らんといってもやろうとするから、ちょっと大きな声になったら、大変な騒ぎになっている。」と困った様子であった。担当は状況を理解して直ぐに病院に駆けつけ、双方に誤解を説明をした。(この場合「不要」であれば「No.」と答えるべきであった。Y社長は日本語で考えて翻訳して答えたため意味が逆になってしまった。)これによりお互いに原因が理解できて問題は解決した。 Y社長は、毎日の回診が医師と薬剤師と看護師とがチームを組んで行われることと、医師が経過観察と予後の説明をし、薬剤のことは薬剤師が判断と説明を行い、看護師は検温・脈拍・血圧等確認し、三者が対等に協力・分担して業務を行っていることに驚いた。また、やさしく温かい微笑みはビジネス上のもので、少しでも人格を傷つけるようなことをしたら容赦はされないことにも驚いた。 日本の看護師さんなら許してもらえたと思ったが、そのやさしさに甘えてはいけない、感謝しなければいけないと改めて思ったという。近いと思われる日米の医療文化も患者から見ると大きく異なっているのである。 以上 2009/1/26 |
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