転勤妻 灼熱印度
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サイト【転勤妻】 運営主宰者 大向 貴子

第6回  元気をくれるインド映画
  • 石鹸 1,500万個
  • ペットボトルの水 576万本
  • たばこ 2億6千万個
  • 車 2,416台
  • 洗濯機 4,274台
  • 映画チケット 1,040万枚

上記は現地新聞紙「The Times of India」に掲載されていた、インド国内における一日に買われる数の平均値である。
現在、消費熱が高まる一方のインドではあらゆる分野で販売が好調だ。
日常消耗品は人口に比例して、数値が大きくなることは納得できる。
その中で、一日に1千万枚以上も売れる映画チケット。
インドならではの独特の文化を強く感じさせる。

日本でも以前大ブームとなった、インド映画「ムトゥ 踊るマハラジャ」。
歌って踊る盛りだくさんのこの作品で、初めてインド映画を観たという人も多いだろう。
インドに来て初めて知ったのが「ムトゥ」は南インドの映画であって、インド全土に知られている映画ではないということだった。
主演の男性ラジニ・カーントは南インドの大スター、インド全国区での知名度は思いのほか低い。
インド人にあの映画が日本で流行ったことを話すと、まず例外なく驚かれる。
国土の広いインドでは、食文化や芸能でも東西南北で特色が異なる。
州によって言語が異なるため、言語圏ごとに映画制作が行われており、それぞれスターを輩出している。
統一されていることといえば、インド人はインド映画をこよなく愛しているということかもしれない。

年間900本近い映画が制作されるインド。
ハリウッド映画でも年間制作本数は500本というから、そのすごさがわかる。
インドではハリウッド映画になぞらえて、ムンバイ(旧ボンベイ)制作の映画をボリウッド映画と読んでいる。
人気作品はロングランとなり、数年にもわたって上映される。
どんな人気俳優が出ている話題作でも、口コミで面白くないと広がればあっという間に上映が終了してしまう。
観客の評価がそのまま影響を及ぼすという厳しい世界で、インド映画は生き残りをかけて日々制作されている。


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人気映画のチケット売り場は長蛇の列
新聞も雑誌も芸能ゴシップ記事が満載

 

多くのインド映画では3時間を越す大作で、途中休憩時間がはいる。
アクション、恋愛、笑い、涙とあらゆる要素が凝縮されているような内容が多く、観客は共に笑い涙する。
スパイスを数種類ブレンドしたものをマサラということから、「マサラムービー」とも呼ばれている。
すべての感情が含まれるだけあって、老若男女問わずみんなで楽しめるのがインド映画の特徴だ。
上映中も日本のように静かに鑑賞するという習慣はない。
正義の味方が活躍する場面では大きな歓声が上がる。
ロマンティックなシーンではスクリーンに向かって口笛を吹くなど、何とも賑やかだ。
舞台も主演の男女が今までスイスの山をバックに踊っていたかと思うと、次の場面ではエジプトのピラミッド前で踊っている。
きらびやかな衣装もめまぐるしく変わっていき、まるでファッションショーが映画のなかで繰り広げられているようだ。
話の辻褄があわない、などということは考えるだけ無駄である。
別世界おとぎ話のような展開は、何も考えず観るのに限る。
頭を空っぽにし、目だけで楽しむ3時間と思えばインド映画もなかなか楽しい。

映画はインド人の心を元気にする「場」なのではないかと思う。
複雑な社会を内側から支えている、見えない大きな柱がインド映画なのだ。
貧困やカースト制度で厳しい人生を強いられている多くのインド人。
そのつらい現実を、つかの間だけでも忘れさせてくれる夢の時間。
スクリーンの前では誰もが等しく、おとぎ話の世界に浸っていられる。
映画で夢をもらい、それを活力としてまた明日に向かっていく。
経済がどんなに成長しようとも、重要な役割を担う映画の文化はきっと変わらない。
インド映画を観るたびに私のその思いは強まるばかりだ。

 


2007/3/15

つづく

 
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