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日本で舗装道路といえば平坦な路面をイメージするが、そこをバスで直進中に背骨を折る単独事故が発生することを想定できるであろうか。パリ・ダカールのラリーでは、砂漠や荒地の中を高速で走るのでそのような事故を散見するものの、一般道では考え難い。
事実は小説より奇なりといわれるが、本件事故は予想もしないところで起きた。
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精密金型製造の匠といわれたA氏は、定年退職をしたものの、気力・体力と時間があり、また、奥様は7年前に早世され、ご子息は一家を構えて独立されていたため身軽な立場にあった。そこで、中国の天津市のある企業の招きに応じて技術指導に赴くことにした。仕事は順調にいき、部下は東京オリンピックのころの日本の若者のように熱心、且つ真面目で大いに教え甲斐があった。帰国後のためにお金を残す必要もないA氏は、休みの度に普段着の中国各地を旅行することを楽しみにしていた。文化の伝来が中国々内で少しづつ変化しながら沿岸部に伝わり、最後に日本まで到着したことが肌に感じられ益々興味が深くなった。そしていつしか心はシルクロードへと飛んだ。中国にいる間に西安からサマルカンドまでバスで行くことを目標として、休暇毎に区間を決めて地図を埋めて行った。
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昨年の9月、A氏は休暇を取って北京から飛行機で3時間の敦煌に降り立った。ここからハミを経由し、シルクロードのウルムチに向かうバスに乗った。途中のオアシスの町で泊まりながらであったが、9月12日も長時間のバスの旅であった。A氏は、途中で夜になり漆黒の闇の中を猛スピードで突き進むバスに若干不安を覚えたが、毎日走っているのだから大丈夫であろうと自分を納得させた。道路は、舗装があちこちで破れて凸凹があり、それを避けながら高速で走るので乗っているほうも体力がいる。それに中国は広い！ 唯々広いのである。トルファンを過ぎて暫くしたころ、A氏は疲労感を感じてうとうととしたとたん、「ドシーンッ！」と激しい音と衝撃が腹の底から響いて息ができなくなった。空手で腹部を突かれた時のような感じで息が吸えないのである。そのまま気が遠くなるように、騒ぎが微かに聞こえた。 |
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バスは、舗装道路に空いた直径1.2ｍほどの穴に左後部車輪が嵌り、ダブルタイヤはバーストしてリムは変形、結局走行不能となった。乗客は多数負傷したが、A氏も起き上がることができない。運転手と元気な中国人が負傷者を運び出してくれたものの、A氏も他の負傷者と同様に道路脇に直接寝かされた。その数時間後トラックがきて重傷者全員を荷台に寝せて、病院に運んだ。トラックが悪路に揺れるたびに痛みで息が止まりそうであった。病院に運ばれ、翌朝レントゲンを取って判明したのであるが、A氏は第5腰椎圧迫骨折であった。
尚、バスの事故は、どの件でも背骨の骨折が多く発生する。A氏は 手持ちの携帯電話で保険会社の西安デスクに事故の報告をした。デスクでは重傷のためすぐに緊急対応を手配した。ISOSの緊急アシスタンスチームの医師は、現地主治医のすぐに手術が必要とする報告内容と現地の設備等を検討し、最終的に日本に運んで手術を受けさせることが最も安全で適切と判断した。
ところで中国には、地図に載っていない軍用の飛行場がたくさんある。ジェイアイでは、間接的にこれらの空港を使えるように契約しているため、遠方のウルムチまで運んで定期便を利用するのではなく、トルファン近郊からチャーター機を使用することとした。
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（この写真は本文のケースではありません。カナダでの事例です。） |
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トルファン近郊の基地からA氏を息子さんの住む福岡まで運び、
救急車で市内の病院に運び入院させた。日本の医師はCT及びMRIによる検査と診察の結果、手術をせずに整復することにした。医師と看護師の搬送チームは日本の医師との引継ぎを終えるとその足で帰国した。なお、この緊急救援に要した費用は943万円でり、現地の治療費と帰国後の治療費は158万円であった。幸いなことにA氏は、治療費または救援者費用、及びその合計でも保険金額限度額まで支払う『治療救援者費用特約』を契約していたので、チャーター機も支障なく利用できた。 |
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一寸先は闇と言うが、漆黒の闇の中を突っ走るバスで大ケガをしたＡ氏は、自分自身がどうなることかと思ったところで携帯電話が通じて日本まで運んでもらえたことを喜び、現在はほぼ回復している。クレジットカードの付帯保険だけであったら現地でこのような救援対応は受けられなかったと思うと、「航空券を買いに行った旅行会社の保険をしつこく勧めた女性には感謝の極みである！」と語るＡ氏であった。
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