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海外駐在員の方々は、皆さん本当によく働かれますが、仕事が命より大切な方は居られないと思います。しかし、時として夢中になって仕事をしていて身体を壊してしまう方を散見します。弊社では一年間に凡そ3万件余りの海外旅行保険事故の報告を受けますが、その約半分は病気で医師の治療を受けた方からの請求です。それらのうち通院で済むものが9割余りです。しかし、時々重篤なものが発生します。
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大手食品会社の社員でパリ駐在員となったN氏は、夫人と二人で赴任しフランス人の社員の勧めによりサン・ラザール駅から電車で3〜40分のポントワーズ駅近くの家を借りることにしました。近くにはオーヴェル・シュル・オワーズの村があり、そこには『麦畑』や『糸杉』など晩年のゴッホの描いた風景がそのまま残っています。N氏はゴッホの熱烈なファンでもあったのです。しかし、仕事が始まるとそれを楽しむ時間など全くないことが分かりました。製品の販路拡張から、内務管理、支店経営と縦横無尽に働いたN氏は、かなり疲れを感じましたが、それでも休むことが出来ない状況でした。赴任して10ヶ月後、歯茎が腫れて血が滲むことがあり、ドラッグストアで薬用歯磨きを買って使っていたが良くなったり再発したり、しかしそれ以上悪化もしないので、そのうち治るであろうと思っていました。
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N氏は健康には自信があり、これまで長距離を車で走っても疲れを感じることはあまり無かったにも拘わらず、この日(5月4日)、客先を回ってからの帰路片道4車線の広い高速道路をパリに向かっていたときに両肩から背筋に掛けて耐え切れないだるさと疲労感を感じたのです。帰社後 残務整理をして深夜帰宅すると、N夫人は「どうしたの、赤い顔をして。」と心配そうに聞いたので鏡を見ると熱があるように赤くなっています。それでも体温を計ってみると37.6℃です。この程度ではフランス人は医師に診てもらわないと思って、日本から持参の風邪薬を飲んでその日は就寝しました。
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ところが翌朝は38.2℃となっており、N氏は、生まれてから此の方38℃の発熱も また熱で食欲がないことも経験がなかったため異常を感じて、キャッシュレス提携のパリのアメリカンホスピタルに保険会社の現地Jiデスクを通じて予約を入れ、受診しました。診察した岡田医師は診察の結果『敗血症の疑い』を持ち、感染症専門病院に転入院をさせました。この段階からN氏が回復するまで、『もうダメだと思った。』N氏に対して専門医と治療チームの懸命の救命努力が続き、回復退院まで1ヶ月余りを要することになったのです。本社では、『もう助からん。』と後任の噂が流れたほどでした。 |
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診療経過報告書(Discharge Summary)によると、検査の結果、N氏の血液中に細菌そのものを発見することは出来なかったが、細菌から出る毒素とそれに影響された種々の物質(サイトカイン)を発見、敗血症と診断されて、39.3℃から38.7℃までの発熱と腎不全の発症により、生命に関わる危険な状態に至りながら、抗生物質の高濃度投与で治療、回復したものです。 |
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この病気は、病原菌が体内の病巣から継続的に血液中に排出され、全身的な感染を起こした状態で、ありふれた菌でも患者の免疫力が落ちている場合は発症するものであると説明がありました。(病巣がどこか分からない場合もある。) |
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本件は、35日間の入院で医師の技術料、検査医、薬剤師・看護師の技術料 病院の施設使用料、薬剤・器材使用料が708万円、通訳費256万円、この他救急車の費用及び、両親とご子息の救援渡航費用合計で80,240ユーロ(約1,100万円)を要しました。
駐在員の皆様の健康を維持することに主眼を置いて考えますと、本件にありますように、過労は度が過ぎると大変なことになります。微妙なバランスの上に成立っている健康を絶えず思いやって頂き、趣味の時間を持てる程度に ほどほどにお仕事を頑張っていただきますようにと考える次第です。くれぐれもご自愛ください。 |