フランス人のある有名な作家はその著作の中で、テーブルマナーについて、日本人は気を遣い過ぎではないかと述べていた。

食習慣は各民族によって異なる。日本の茶道において三口目の抹茶を、音をたてながらすすり込むことは、作法の一つとして知られている。その日本人がスープの音をたてて飲むことは、現地の知識人から見れば食習慣が違うということで許されることであるという。それも程度ものではあるが…。

それよりも異常な行動と思われるのは、フランスの一流レストランで地味な背広にネクタイを締めた日本人や中国人だけの男性が8人とか10人とかで食事をしている、それもかなり多く見られる点であるという。

欧米の人々が夜の行動をするときは、人数割合は別として男女の単位で行動する慣習があるので、テーブルマナーよりもその『慣習』を尊重することの方が現地社会には受容れられ易いことであるという。とはいえ、日本のサラリーマン社会では会社の上司の要望を聞かないわけにはいかない。

N証券のパリ支店勤務のAさんは、本社の役員氏より「パリ出張時に有名な三ツ星レストランで食事をしたい。メンバーは…。」と要請を受けた。男性ばかり8名である。気が進まなかったが仕事であり、Aさんはそつがないように手配を済ませ、ホテルも有名なBホテルをリザーブした。

当日の夕食会は楽しく、役員氏はワインと料理を大いに楽しみ、Aさんに謝意を示してホテルに引き揚げた。 Aさんも帰宅して眠りに就こうとした。そのとき電話のベルがけたたましく鳴り、受話器を取ると役員氏が「困ったことになった。直ぐ来てくれ!」という。

Aさんは、奥さんの不機嫌をよそに急ぎホテルへ行くと役員氏の部屋は水浸しである。聞くと、夕食後部屋に戻りバスタブに湯を入れたが それを待っている間に酔いが回りいつのまにか寝てしまった。 その結果、階下に漏水して被害が二階のバーにまで及び、フロントマンが確認に来て気づいたという。

Aさんは役員氏の部屋を替えてもらうようホテル側に要請し、それは出来た。しかし、ホテル側の態度は堅く被害の損害賠償請求をするという。役員氏は「君に全て任せるからうまくやれ。」と言って、翌日ロンドンへ発ってしまった。

困り果てたAさんは、役員氏の海外旅行保険会社に電話して相談したところ、「以後のホテルとの交渉はお任せ下さい。」といわれ、不安ながら対応を依頼した。しばらくして日本の役員氏から「よくやってくれた。世話になった。先ほど保険会社から解決の連絡が来た。有難う。このことは口外しないよう頼む。」と直接電話があった。

初めはどうしてよいか分からなかったAさんであったが、この電話で保険会社が交渉して解決したことを理解しようやく接待が終わった、と感じた次第であった。

Point: ホテルは満室でなくても営業損害を請求し、本件ではバーの営業不能損害を大きく加算してきた。日本国内と異なり、ホテル側はお客様であるからといって請求を控えたりしない。

損害賠償問題が発生した場合には保険会社に報告し、専門家による対応を求めることが最良である。間違ってもその場凌ぎに内容の分からない書類にサインをしないことである。

以上


  

2009/12/25

ページTOPへ

[目次]  まえ

つづく

 

Copyright(C)2007 Etsuji Sakai All Rights Reserved.