ワインの消費が高まるにつれヨーロッパや米国西海岸だけでなく、南米産、特にチリ産の中にも評判のよいものが輸入されてきている。ユーロ高のためか、輸入価格の上昇したヨーロッパを避けワイン等の買い付けに出かける商社の方々も増えたように思う。また観光地として、極めて風向明媚なパタゴニア地方を訪れるツアーも売られており一般の人からも親しみを感じてもらえる国である。 この国が、南北に細長い形をしていることはよく知られているが、その中央にあるサンティアゴは、気候が日本と似て明確な四季があり、夏は35℃ぐらいまで上がり、冬は0℃を割ることもある町で日本にほぼ近い感がある。違いは12月から2月までの夏は雨がほとんど降らないため乾燥して喉を痛め易いことと、冬は曇天で風のない日が多く、スモッグが発生してこれまた喉を痛め易い。しかし、野菜・果物や農産物は安く豊富で、鮭や牡蠣など海産物も豊富であるが外務省の情報によると水道水が飲用に適さないため加熱調理して食べる必要があるという。

  この国は他の南米諸国と同様自動車の運転マナーは悪く、規則を無視した乱暴な運転が多く見られる。歩行者優先の日本から行くとショックを受けるほどで、横断歩道を青信号で渡るときにも注意していないと突っ込んで来る車が珍しくない。都市部の道路は舗装されているが所々穴があったりして状態はあまり良くない。これが地方へ行くと一層悪くなり道路工事も多く、予告標識も適切ではない場合がある。そんな中で日本の旅行会社のパックツアーの一行12名と添乗員1名が南部パタゴニア地方を訪れていた。大地に緑は少なく素晴らしい風景を楽しみ、いわば地球上とは思えない大地に畏敬を覚えるほどであった。 道路がゆるい左カーブで、若干スピードが出ていたため荒れた舗装の上からバスが路外右側に逸脱して事故は起こった。右前輪が直径20cmぐらいの石に乗り上げそのまま走りスローモーションのように左側に横転した。

  ガラスは割れ網棚の荷物は散乱し、乗客8名が重傷を負った。バスの事故は背骨を骨折する人が多く発生する。このときも頚椎と胸椎を骨折した人が1名、胸椎、腰椎を骨折した人が各1名、そのほか上腕骨粉砕骨折が2名、肩甲骨骨折が1名、全身打撲が2名であった。このうち海外旅行保険に加入していた人は5名、クレジットカード付帯保険だけの人が2名、保険なしのひとが1名であった。 救急車でパタゴニアの州都プンタアレナスに運ばれ、救急病院に入院した一行に病院のソーシャルワーカーが初めに聞いたことは、「治療費の支払いができるか?」であった。 日本であれば救急車で運ばれた患者がホームレスであっても先ず治療を行って、その後にお金の話である。しかし、お金が先であり、間違っても「命とお金とどちらが大切だ!!?」などと言ったら診てもらえない。日本の医療の優しさを改めて感じた一行であった。保険に入っていた5名の救援には、海外旅行保険会社が米国から派遣した救助チームが到着して対応した。 事故発生が2月13日でリオのカーニバルの2日前のため定期航空便は全便満席であり、脊髄損傷の患者を運ぶためのストレッチャー用複数座席確保が不可能なため チャーター機を使用してプンタアレナス空港から途中給油をしながらテキサス州ダラスまで5名を運んだ。5名の転医退院の際に病院側は治療費の即時支払いを求めたため、救助チームは持参のコーポレートカードで支払い手続きを済ませた。その後ダラスの病院で治療を受け、安定期に入ってから5名が、今度は定期航空便で医師付き添いの上 日本の病院までの医療搬送により帰国入院した。この5名の救助に保険会社が支払った総額は7,800万円であったという。

  一方、クレジットカードの付帯保険は、死亡保険金額が高いだけで治療費等の保険金額は低く、このようなときには『焼け石に水』であった。2名は、もう1人の保険のない人と共に、保険会社の救助チームに「後日必ず費用を支払うので一緒に救助してほしい。」と懇願したが受け容れられなかった。 怒った3名は「そんなこと人道的に許されるか?」と怒鳴ったそうであるが、保険会社のチームが断るのは当然であろう。 保険会社は人道的に救助しているのではなく、契約に基づいて保険金額の範囲内で救助するのである。現場で担当者が私情に溺れ、関係ない人に対する救助活動をすることは許されないのである。

  保険会社が現地病院に治療費の支払い保証を申し入れてもなお、患者を帰国入院のため連れ出すときに現金又はカード等で即時支払を求める医療機関が当たり前にある地域が世界にいくつもある。

 南米は、一般的にそのような事例が多い。 つまり信用取引の確立ができておらない地域である。 お金の話の前に治療を行う日本のように患者に優しい国は世界のどこにもないと思われる。 また、カード付帯保険では、治療費の立替支払いができる程度の病気・ケガには有効であるが、いざというときには保険金額が低すぎて役に立たない事例を多く見ている。 期待し過ぎてやけどをしないように老婆心ながら申し上げると、海外での医療は正に「地獄の沙汰も金次第!」である。

 

 : 我が国の渡航医学の専門家によると、チリの医療機関のレベルは、ピンからきりまで格差があるが、欧米先進国の設備を入れ、医療技術の交流を行って比較的整っている施設もあるという。 また、現地で医療を受ける場合は予約が必要である。 医薬分業であり、薬は処方箋に従って薬局で購入する。 また診療費は診療の後窓口で支払うが、検査を受ける場合には費用を先に支払い領収書を持って、検査を受けに行く。
  尚、入院する場合には現金か小切手、またはクレジットカードで保証金を支払わされるので、日本との違いに注意を要する。(支払わないと入院できない。)                       

以上

2008/3/25

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