このウイルスが人に感染する経路に関係するものとして(1)鳥類、(2)蚊やダニのような昆虫、(3)人を含む哺乳類があります。
(1) 鳥類
先に述べたように最近の米国の流行でも"カラス"を初めとして、多くの鳥の死体からWNFVが発見されたことは、鳥類がWNFの病原ウイルスを運んでいることを証明しており、以前ヨーロッパ、中東やロシアで起きた流行でも鳥類からWNFVが発見されています。然し鳥の中にはWNFVに感染しても短期間では死なず、数週間、数ヶ月間体内にウイルスを持ったまま活動を続けるものもあり、このようなウイルスを持つ"渡り鳥"がWNFVを他の地域に運びこんで流行の種を作ると言われています。 即ち鳥類はWNF流行地を増加または拡大する可能性を持っていることになります。
(2) 蚊、ダニ
鳥類は時にダニを体につけて移動したり、鳥が地上に落としたダニが再び鳥にとりつく可能性もあります。WNFVの感染とダニ(マダニ)については、私は多くの文献に接しておりませんが、ダニから人に感染すると言う報告から考えると感染経路は;WNFVを持つ鳥をダニが刺し、ウイルスをもらったダニが人を刺して、ウイルスを人に感染させると考えて良いと思います。これに関連して興味のあることは,WNFVと同じFlavivirusのグループに入れられている"ダニ脳炎"の病原ウイルスを持ったダニは、その卵の中にもウイルスを与え、卵から出てくるダニは初めから病原ウイルスを持った成虫になることで、もしWNFVを持つダニに同様のことが起きるとすればWNFV対策として、"ダニ対策"は次に述べる"カ対策"と同様に重要になると思いますので、今後の研究項目ではないかと思っております。
(3) 蚊から哺乳類へ
蚊は、WNFVに感染している鳥から他の感染していない鳥へ、または感染している鳥から人を含む哺乳類へ、ウイルスを感染させる役を演じていて、WNFV感染経路の中心となっているとも言え、ウイルスに感染した人を含む哺乳類から、他の哺乳類への感染にも一役かっています。然し鳥類と違い、蚊の行動範囲は限られているので、ウイルスを他の離れた地域に広げる能力は限られています。蚊の中で特にイエカがウイルスを人に媒介すると言われていますが、他の種類のハマダラカ、ヤブカなども媒介します。蚊は高温でも、多少低温でも人を刺し、その卵は高温多湿地帯では1〜2日で、多少気温が低くても1〜2週でボーフラになると言われます。乾燥状態でも2〜3年は生きていると言われているので、大切なことは卵を生ませないような対策です。
● 蚊に刺されない工夫
蚊に刺されないようにするには、"住居の設備、日常生活上の注意"など細かい注意が必要です。その詳細については、「海外で健康にくらす」の「資料3」337頁以下を参照して下さい。
● WNFVに感染した哺乳類が、病気の流行に及ぼす影響
ウイルスに感染した人や他の哺乳動物の行動範囲は狭いので、あまり遠くの地域に広がらないこと、体内のウイルス量も鳥ほど多くないことなどから、哺乳類が原因で起きる爆発的な流行は少ないのではないかと言われています。
然し蚊の媒介なしでも、感染者が健康な人に直接感染(いわゆる空気感染)することが実験的には可能であると証明されています。また感染している母親の母乳から乳児にウイルスを感染させる可能性も指摘されています。
感染者と気付かずに、"無症状感染者"からの輸血や臓器移植による感染については既に述べました。
● WNFの流行の歴史
この病気は1937年熱帯アフリカ、ウガンダの"West Nile 地区" で、発熱している女性から初めて発見され、以後アフリカ北部で流行を繰り返し、1958年〜1985年までに、アルバニア、アルジェリア、チェコ、エジプト、フランス、ギリシャ、インド、イスラエル、イタリー、モロッコ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スロバキア、南アフリカ、チュニジア、ウクライナなど多くの国からWNFの流行が報告されています。しかし1958年から1999年の41年間に、同じ国から2度目の流行の報告はされていません。これについては、いろいろな仮定をすることができます。
(1) WNFVを体内に持った"渡り鳥"が来ない。
(2) WNFVを鳥から鳥へ、鳥から人、または哺乳動物へ感染させる蚊やダニがその国にはいなくなった。
(3) その国ではWNFVの免疫抗体を持った人が多くなったため、流行状態を起こさない
などが考えられます。
以上3つの仮定条件のうち、(1)および(2)が先に述べた多くの国に当てはまるというデータはなく(3)の前提を満足させるためには、その国の住民の多数がWNFVの免疫抗体を持っていることが条件になると思います。この条件を満たすデータとして、エジプトの住民の80%がWNFVの免疫抗体を持っているという「Manson's Tropical Diseases」の記載があり、2回目の流行の報告がない国々でも、このような状況であるか否かは、今後の調査の課題でしょう。WNFVの流行の起きた国へ、流行を経験したことのない国から入国して行く人、特に高齢者は蚊に刺されない注意が大切だと考えます。
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