【Fami Mail】 特別寄稿連載  
 
ケンブリッジ大学留学記
英語嫌いのケンブリッジ留学
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ケンブリッジ大学Engineering Department
Master of Scienceコース
「STOOP」
著者HP>1,2,3でTOEFL脱出イギリス行
 第六回 いろんな中華

 はるか遡り、第一回で予告したのですが、今回は「中華」について触れてみたいと思います。

 といっても北京・上海・広東・四川にわたって中華料理を紹介するわけではなく、同じ研究室にいる、中国本土と香港からの学生から聞いた中華文化やそれを取り巻く状況について、少し触れてみようというだけです。あえてタイトルに「中国」と書かなかったのは、そう表現してしまうと、非常に複雑な「中華」の相互関係、文化、考え方が一つのものとして捉えられるようなイメージに思えたからです。

 中国本土、香港、マカオ、台湾、ひとくちに中国とは言い切れないですよね...なんて、格好つけてますけど、そんなに深く掘り下げたわけではないので、気軽に読んでください。

■日本人とアジア人

 現在、30人ぐらい在籍する我が研究室には、中華系の学生が13人もいます。もちろんイギリスを上回る最大勢力になっています。数学科に在籍する友人の話では、やたらドイツが多くアジアは少ないと言っていたので、少々この割合は極端なのかもしれませんが、前述のとおり、私が所属するEngineering Department全体で見ても、イギリスと中国が最大勢力であることには変わりありません。

 内訳としては、中国本土が2人、香港が異常に多く8人、マレーシアの中華系が3人、珍しく台湾は0人となっています。純粋に中国籍となると10人、これでも約1/3です。

 ところで、日本にいた頃、ロースクールやMBA留学などをした先輩に「やっぱり向こうで頼りになるのは(仲良くなるのは)アジア人。レポートの時、本当に世話になった。彼らなしでは卒業できなかった。」という手合いの感想を何度も聞くにつけ、「せっかくなんだから東洋以外の人と仲良くすればいいのに。」と思っていました。

 しかし、いざフタを開けてみると、なんのことはない、自分が最も仲良くさせてもらっているのはやはりアジア人、大同出身の趙君とと香港出身の李君、そして上海出身の辺君です。そして、moduleのレポートも確かに彼らなしでは、「いいもの」は書けなかったでしょう。親切に色々な文献を教えてくれたり、タッグを組んでやらされたレポートでは英語力の必要とする部分を担当してくれたり、とまぁ枚挙に暇がありません。

 一方で、香港からの留学生のうち一人の女の子は、「なんか、こっちは、アジア人同士で固まるよねぇ。MIT(彼女はMITの修士出身)では国籍関係なくみんな仲良くしていたんだけど。」と言っていました。

 本当かなぁ?と思うのですが、彼女によれば、こっちでは、中国人だけじゃなく、どの国の人も自国や隣国同士で仲良くしているので、自分もアジアンソサエティに参加せざるを得ない、という口ぶりでした。

 確かにイギリス人がアメリカ人よりもreservedなんで、全体にもそういった雰囲気になるのかもしれないです。でも、少なくとも研究室にいる間は、あまり国籍関係なくみんな話していますし、彼女が言うほどかたまってはいないと思うんですけどね。自分から求めさえすれば、いろんな関係が築けるはずです。

 学生とはいえ、年齢については大きな幅があるのに、こうやって仲良くできている時点で、日本とは違って面白いなと自分は思えています。李君23歳、趙君25歳、辺君27歳、そして私は30越えています。

■中華料理

 中華レストランと中華食材店のおかげで、人間的な食生活が送れていることは、以前にも紹介しました。やはり中華系のメンバと仲良くなってしまう理由の一つには、やはり「食」があるということは否めません。

 イラン人の友達もいるのですが、どうしてもハラーム(禁じられているもの)があるので、気軽に中華などには誘えません。最近はラマダンでしたし、そういった生活習慣の違いなども、誘い誘われる回数が減る原因でもあります。アフリカ人の友達の多くもムスリムなので、同じです。

 一方、西欧系の人の中にも中華料理が好きという人、そして箸を上手に使える人が多くなってきましたが、週に何回も食べるとなると、当たり前ながら、NGの場合が多いです。それにイギリス人は、日本人より早めに夕食を食べる傾向があるように思います。あるいは食べずにパブに行ってしまう、とか。

 そうなってくると、どうしても食事をするのは中国人(以降、わかってもらえたと思うので、中国人と書きます)、となってしまいます。しかし、面白いことに、中国人の思うおいしいレストランと、自分を含めた日本人が思うのとでは、少し隔たりがあるようです。中国人にとっては、ケンブリッジのガイドブックにもよく載っているある中華レストランがベストなんだそうですが、自分を含めた数人の日本人の意見は共通していて、「あそこはまずくはないけど、取り立てておいしいわけじゃない」といった印象です。

 逆に、自分が試しておいしかったレストランを紹介したら、(笑いながらですが)「浩一郎、だましたな!」と言われました。彼らは本当に私がふざけてわざとおいしくない所を教えたんだと思ったそうです。彼らは日本人よりも少し濃い目の味、日本人からすると少し素材の味を隠してしまっているぐらいに感じるぐらいがいいようです。

 ちなみに、回鍋肉をホイコーローと発音したら、そこにいた6人ぐらい全員が驚いたのが印象的でした。すでに日本語になっていることは誰も知らないので、なんで知ってんの?すごいじゃん!ってな具合です。自分にとっては、むしろ6人の中国人の中に入って飯を食っていることの方が「すごい」んですが。

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■マンダリンとカントネーゼ

 そんな風に何度も中華料理に行っていると、面白くも不思議に感じられてきたのが、彼ら同士の言語の違いです。私は不勉強だったので留学前は漠然としか知らなかったのですが、本土の大部分ではマンダリン(普通語)が日常会話で使われている一方、香港ではカントネーゼという別の言語で会話がなされます。

 この違いは、関西弁と標準語の違いどころではなく、お互いにほとんどわからないんだそうです。青森と沖縄よりは近いと思いますが、ちょっと聞いているとまったく違うのがよくわかります。

 ただ、最近の香港の若い世代はマンダリンを学校で習うらしく、彼らの多くがマンダリンを話せるので、我が研究室ではあたかも彼らが同じ母国語を持っているように、傍目からはそう見えます。

 面白いのは、そんな2つの言語ですが、漢字で書くと多くの場合、同じなんだそうです。しかし、ここにも落とし穴があり、ご存知のとおり、中国本土では表記では簡体字が使われていますが、香港では繁体字(旧漢字)が使われています。日本は、この観点からいうと、旧漢字を使っているので、香港の言語表記はわかりやすいです。一方、簡体字のほとんどは理解できません。

 じゃぁ台湾はどうなのか、というと、話し言葉はマンダリンで、書き言葉は繁体字、というこれまた違う文化です。

 そこで、中国本土出身の趙君に、香港に行ったら何語で話すの?と聞いたら、「英語」と返ってきました。しょうがないですが、なんだか違和感ありますね。だから、香港人の李君は、中華レストランに行っても、ぱっと見ただけでは、本土系か香港系かわからないので、最初に何語で話すか(英語かマンダリンかカントネーゼか)に困るそうです。

 多言語話せるんだから、困るなんてセリフは贅沢ですよね。

■中国人の英語

 しかし、彼らとの大きな違いは、やはり「英語が流暢に話せる」ってところです。

 香港では小学校から英語教育があるようで、先生ももちろんペラペラなんだそうです。香港の歴史を考えれば、英語が根付いたのは当たり前かもしれませんし、悲劇的な歴史が生んだ一つの結果であると捉えることもできるでしょう。

 しかし、中国本土出身の趙君が、やたらめったらうまいのには疑問山積みです。それで、ある時、なんでそんなにうまいのか聞いてみました。私が思うに、英語教育の差、だったのですが、彼曰く「中国も学校での英語教育はpoorだよ」なんだそうです。

 しかし、何度か話していくうちに、中国語の方が英語に近い発音を多く持っているという言語そのものに起因する要素はさておき、若い時から多くの教科書やレポートを英語でこなしてきたということがわかってきました。彼の場合は学部もケンブリッジですからちょっと参考にならないのですが、その他何人かの中国本土の学生と話していると、どうやら英語に触れる機会が日本人大学生より圧倒的に多い印象です。

 日本では、かつて、先を行っていた海外技術をスムーズに国内へ導入するために、多大な努力をして多くの海外文献を邦訳し、その結果、異常な速さで技術が伝播し応用され技術大国になった反面、両刃の剣というのでしょうか、平均的な英語力は落ちていったんだ、という説があるそうです。

 だから今度は全体的な英語力の向上を、ということなんでしょうか、小学校から英語を始めるということに日本もなるようですが、どういう目的で英語を学ぶのかをいつ教え、また誰がどう教えるか、という議論をしっかりしたうえで導入してほしいですね。

 ちなみに、6ヶ国語をあやつるスイス人によると、李君ではありませんが、ある香港からの学生の英語は最初はひどいものだったそうです。それに比べれば、私の英語はゆっくりだけど、文法的には正しいので、いいんじゃないか?と言っていました。日本の英語教育の賜物です。

 個人的には、聞き取れる方がいいじゃん、って思うのですが、李君はあんなにちゃんと会話が出来て流暢に話もできるのに、レポートの英文となると、私よりも出来が悪くいつも困っているので、彼から見ると私の方が「いい」んだそうです。会話重視もいいけど文法のお勉強もやっぱ大切なんだ!と気づかされる日々です。

 ちなみに李君は例外ですが、香港の学生の多くは、発音も中国語の影響を受けているのか、かなり特徴的で非常に訛っており、聞き取りにくい場合が多いです。しかし、この問題は、第二回で触れたように、みんな訛りまくりの英語を話しているので、RPを話さない限りは、みんな一緒という感じがします。

 ちなみに、王室が話す英語をRPといったような表記をその時にしてしまいましたが、王室の英語は、RPともまた違うんだそうです。すいません、ここにお詫びします。

■ニックネーム

 しかし、これだけ仲良くしていても慣れないのは、香港と台湾の人が使う西洋人的ニックネームです。

 本名はちゃんとした中国名があるのに、リッキーだの、ジョニーだの、アルバートだの名乗っていると、なんだか???な気分になります。これも歴史が強く関係している話だとすれば、そんなに簡単に批判(じゃないですが)するもんじゃないんだ、ということになるかもしれないですが、やはり違和感を覚えます。

 こう思うのは、何も日本人だけじゃないらしく、英語のスクールとかに行くと、イギリス人の先生が台湾からの学生などに、「メガンじゃなくてあなたの本当の名前は何?」と聞いていたりしました。イスラエル人の友達も、「あの顔でアルバートはないよなぁ。彼からのメールを探すときに、中国っぽい名前じゃないから、ついつい見逃してしまったよ。」と言っていたので、どうやら皆思っているようです。

 李君によると、小学校ぐらいで先生が名付けてくれて、それ以来ずっと自分の「あだ名」として使ってきているそうです。パスポートやIDカード(香港人は持っているそうです)とかに載っているわけじゃないので、途中で自由に変えることもできるけど、小さい頃からずっと同じのを使っている人が多いとか。ちなみに、本名として登録もできるけど、その場合は、オリジナルの中国名を失うことになるそうです。

 要するに、本当に「あだ名」に過ぎないのですが、正式書類以外は全て「あだ名」で通していることが多いということです。そして、香港人同士は、あだ名と本名、いずれでも呼び合うそうです。しかし、せめて自分の名前に似たあだ名にしてほしいと思っているのは私だけではないはず。

■日本名の英語表記

 一方、日本語の英語表記も困りものです。私の場合「DAKE」になりますが、誰も「だけ」とは読みません。「ミスターデイク」です。

 この話をイスラエル人にしたら、なんで「DAKKE」にしないの?、と言われました。なんでも、彼らは結構自由に自分なりの英語表記でいいんだとか?日本ではローマ字表記のルールがあるので、変えようがないんだと説明したのですが、いまいち納得がいっていない様子でした。

 日本も「じょうじ」が「GEORGE」にできるようになるとか聞きましたが、そんな些細なことじゃなく、国民全員が西欧圏の人(そしてアルファベットを読める世界各国の人)にちゃんと読んでもらえるような表記にしてもいいという許可を出すか、それに対応した統一ルールを作ってくれるか、の方がいいんじゃないか?と思います。

 趙君に「こんなことだったらおれが世界を征服して日本語を広めたらいいんだ」なんて冗談を言ったら、これがシャレになりませんでした。自分の発言に対する責任、戦争に対する他国からの目、相手の立場を考える姿勢、すべてに配慮が足りなく軽率に発言したせいです。

 あぁ、日々、勉強と反省の身です。

2004年12月15日

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つづく

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