【Fami Mail】 特別寄稿連載 |
ケンブリッジ大学留学記 |
*目次* *写真集* |
第六回 いろんな中華 |
■マンダリンとカントネーゼ
そんな風に何度も中華料理に行っていると、面白くも不思議に感じられてきたのが、彼ら同士の言語の違いです。私は不勉強だったので留学前は漠然としか知らなかったのですが、本土の大部分ではマンダリン(普通語)が日常会話で使われている一方、香港ではカントネーゼという別の言語で会話がなされます。 この違いは、関西弁と標準語の違いどころではなく、お互いにほとんどわからないんだそうです。青森と沖縄よりは近いと思いますが、ちょっと聞いているとまったく違うのがよくわかります。 ただ、最近の香港の若い世代はマンダリンを学校で習うらしく、彼らの多くがマンダリンを話せるので、我が研究室ではあたかも彼らが同じ母国語を持っているように、傍目からはそう見えます。 面白いのは、そんな2つの言語ですが、漢字で書くと多くの場合、同じなんだそうです。しかし、ここにも落とし穴があり、ご存知のとおり、中国本土では表記では簡体字が使われていますが、香港では繁体字(旧漢字)が使われています。日本は、この観点からいうと、旧漢字を使っているので、香港の言語表記はわかりやすいです。一方、簡体字のほとんどは理解できません。 じゃぁ台湾はどうなのか、というと、話し言葉はマンダリンで、書き言葉は繁体字、というこれまた違う文化です。 そこで、中国本土出身の趙君に、香港に行ったら何語で話すの?と聞いたら、「英語」と返ってきました。しょうがないですが、なんだか違和感ありますね。だから、香港人の李君は、中華レストランに行っても、ぱっと見ただけでは、本土系か香港系かわからないので、最初に何語で話すか(英語かマンダリンかカントネーゼか)に困るそうです。 多言語話せるんだから、困るなんてセリフは贅沢ですよね。 ■中国人の英語しかし、彼らとの大きな違いは、やはり「英語が流暢に話せる」ってところです。 香港では小学校から英語教育があるようで、先生ももちろんペラペラなんだそうです。香港の歴史を考えれば、英語が根付いたのは当たり前かもしれませんし、悲劇的な歴史が生んだ一つの結果であると捉えることもできるでしょう。 しかし、中国本土出身の趙君が、やたらめったらうまいのには疑問山積みです。それで、ある時、なんでそんなにうまいのか聞いてみました。私が思うに、英語教育の差、だったのですが、彼曰く「中国も学校での英語教育はpoorだよ」なんだそうです。 しかし、何度か話していくうちに、中国語の方が英語に近い発音を多く持っているという言語そのものに起因する要素はさておき、若い時から多くの教科書やレポートを英語でこなしてきたということがわかってきました。彼の場合は学部もケンブリッジですからちょっと参考にならないのですが、その他何人かの中国本土の学生と話していると、どうやら英語に触れる機会が日本人大学生より圧倒的に多い印象です。 日本では、かつて、先を行っていた海外技術をスムーズに国内へ導入するために、多大な努力をして多くの海外文献を邦訳し、その結果、異常な速さで技術が伝播し応用され技術大国になった反面、両刃の剣というのでしょうか、平均的な英語力は落ちていったんだ、という説があるそうです。 だから今度は全体的な英語力の向上を、ということなんでしょうか、小学校から英語を始めるということに日本もなるようですが、どういう目的で英語を学ぶのかをいつ教え、また誰がどう教えるか、という議論をしっかりしたうえで導入してほしいですね。 ちなみに、6ヶ国語をあやつるスイス人によると、李君ではありませんが、ある香港からの学生の英語は最初はひどいものだったそうです。それに比べれば、私の英語はゆっくりだけど、文法的には正しいので、いいんじゃないか?と言っていました。日本の英語教育の賜物です。 個人的には、聞き取れる方がいいじゃん、って思うのですが、李君はあんなにちゃんと会話が出来て流暢に話もできるのに、レポートの英文となると、私よりも出来が悪くいつも困っているので、彼から見ると私の方が「いい」んだそうです。会話重視もいいけど文法のお勉強もやっぱ大切なんだ!と気づかされる日々です。 ちなみに李君は例外ですが、香港の学生の多くは、発音も中国語の影響を受けているのか、かなり特徴的で非常に訛っており、聞き取りにくい場合が多いです。しかし、この問題は、第二回で触れたように、みんな訛りまくりの英語を話しているので、RPを話さない限りは、みんな一緒という感じがします。 ちなみに、王室が話す英語をRPといったような表記をその時にしてしまいましたが、王室の英語は、RPともまた違うんだそうです。すいません、ここにお詫びします。 ■ニックネームしかし、これだけ仲良くしていても慣れないのは、香港と台湾の人が使う西洋人的ニックネームです。 本名はちゃんとした中国名があるのに、リッキーだの、ジョニーだの、アルバートだの名乗っていると、なんだか???な気分になります。これも歴史が強く関係している話だとすれば、そんなに簡単に批判(じゃないですが)するもんじゃないんだ、ということになるかもしれないですが、やはり違和感を覚えます。 こう思うのは、何も日本人だけじゃないらしく、英語のスクールとかに行くと、イギリス人の先生が台湾からの学生などに、「メガンじゃなくてあなたの本当の名前は何?」と聞いていたりしました。イスラエル人の友達も、「あの顔でアルバートはないよなぁ。彼からのメールを探すときに、中国っぽい名前じゃないから、ついつい見逃してしまったよ。」と言っていたので、どうやら皆思っているようです。 李君によると、小学校ぐらいで先生が名付けてくれて、それ以来ずっと自分の「あだ名」として使ってきているそうです。パスポートやIDカード(香港人は持っているそうです)とかに載っているわけじゃないので、途中で自由に変えることもできるけど、小さい頃からずっと同じのを使っている人が多いとか。ちなみに、本名として登録もできるけど、その場合は、オリジナルの中国名を失うことになるそうです。 要するに、本当に「あだ名」に過ぎないのですが、正式書類以外は全て「あだ名」で通していることが多いということです。そして、香港人同士は、あだ名と本名、いずれでも呼び合うそうです。しかし、せめて自分の名前に似たあだ名にしてほしいと思っているのは私だけではないはず。 ■日本名の英語表記一方、日本語の英語表記も困りものです。私の場合「DAKE」になりますが、誰も「だけ」とは読みません。「ミスターデイク」です。 この話をイスラエル人にしたら、なんで「DAKKE」にしないの?、と言われました。なんでも、彼らは結構自由に自分なりの英語表記でいいんだとか?日本ではローマ字表記のルールがあるので、変えようがないんだと説明したのですが、いまいち納得がいっていない様子でした。 日本も「じょうじ」が「GEORGE」にできるようになるとか聞きましたが、そんな些細なことじゃなく、国民全員が西欧圏の人(そしてアルファベットを読める世界各国の人)にちゃんと読んでもらえるような表記にしてもいいという許可を出すか、それに対応した統一ルールを作ってくれるか、の方がいいんじゃないか?と思います。 趙君に「こんなことだったらおれが世界を征服して日本語を広めたらいいんだ」なんて冗談を言ったら、これがシャレになりませんでした。自分の発言に対する責任、戦争に対する他国からの目、相手の立場を考える姿勢、すべてに配慮が足りなく軽率に発言したせいです。 あぁ、日々、勉強と反省の身です。 | |
2004年12月15日 | |
(c)Copyright 2004 STOOP all rights
reserved. |