【Fami Mail】 特別寄稿連載
|
〜目次〜 イェール大学留学記
|
Yale University(イェール大学)
林学及び環境学スクール
環境科学修士&開発経済学修士 大司 雄介 |
<第6回>アフリカの発展 |
僕の研究は少しずつ、軌道に乗ってきました。しかし、僕の研究自体が、「空港で旅行者にアンケートをする」という、非常に興奮度の低い内容であるため、それを紹介するのはやめにします。 今回はちょっと趣向を変えて、マダガスカルという窓を通して、アフリカ全体を見てみたいと思います。 『アフリカ』といって私たちが思い浮かべるものはなんでしょう。砂漠、貧しい、人口爆発、伝染病、エイズ…、ネガティブな要素がほとんどではないでしょうか? もちろん、アフリカ諸国それぞれが、独自の歴史や文化を有していますが、そういったネガティブな概要は、ある側面においてはアフリカ(特にサハラ以南のアフリカ)を的確に現しています。 世界の中で、1日2ドル以下で生活している人々の分布を見ると、その多くがアフリカと南アジアに集中しています。 |
|
■なぜアフリカ? これに対する答えは、学者の間でも非常に大きな隔たりがあります。 今回は、僕がマダガスカルで見てきた経験をもとに、ちょっと考えてみたいと思います。そしてアフリカがなんとなく、遠い世界のことのように思っている(かもしれない)みなさんにも、考えてもらえたらな、と思います。 |
■アフリカの歴史 1960年代に、アフリカ諸国は次々と独立しました。彼らの多くは、「これからは、僕たちもアメリカやヨーロッパ、日本のように発展するんだ!」と夢や希望を抱いていたことでしょう。 世界の中には、ラテンアメリカや東南アジア諸国のように、急激な発展を遂げた国々もあります。 |
■二つの仮説 一つの説としてあげられるのが、アフリカの『気候説』です。 もう一つの説は、かつての殖民諸国(主にフランスとイギリス)が、被植民地の後の発展に影響を与えているのではないか、という『植民地説』です。 |
⇒⇒写真をクリックすると大きな写真になります | ||
■マダガスカルでは 僕は特に二つ目の仮説を、マダガスカルで実感したように思います。それを少し紹介しましょう。 反論の余地はいくらでもあります。でも、みなさんに、アフリカの貧困について考えていただくには、良い起点になるのではないかと思い、批判を承知のうえであえて紹介します。 フランスの植民地であることの問題とはなんでしょう?僕がここで紹介したいのは、「言葉」と「ビジネス」です。 |
■フランス語の弊害・フランス式ビジネスの弊害 旧フランス植民地の国々は、今でもフランス語が公用語のひとつとなっております。当然マダガスカルでも、国民の多くが、マダガスカル語とフランス語を話します。 実際、僕が現地の人と会うことがあると、まず必ずといっていいほど聞かれるのは、「お前はフランス語を話すのか?」ということでした。ちなみに、僕はフランス語が一切話せません。そして、マダガスカル人のほとんどは英語が話せません。そのため、僕たちの会話はそこで終わってしまいます。 この英語の浸透度の低さはどこにいっても同じです。ホテルでも、どのような交通機関でも、英語を話せる人がほとんどいないのです。 僕は大学時代に、途上国と呼ばれる国々を、一人で旅してきました。その時は、どこの国に行っても、ホテルやタクシーの運ちゃん、電車の窓口など、旅行者と接する機会のある人々は、少なからず英語を話しました。そのため、コミュニケーションに困ったという記憶はほとんどありません。しかしマダガスカルではそれが通用しないのです。 僕がマダガスカルで最初に滞在していたホテルでは、昼の間は英語ができる女性が働いていたものの、夕方に彼女が仕事を終えて帰ってしまうと、残された人は誰一人として英語が話せませんでした。 言葉が通じないことで受けた苦労話は、思い出せばきりがありません。 だからこそ、僕はマダガスカル語を話そうと努力しました。フランス語ではなく。実際に僕は、フランス語は挨拶程度しか出来るようにならなかったけれど、マダガスカル語は結構上達しました。 でも、そういうことではないのです。僕が問題だと思っているのは、マダガスカル人がフランス語しか話せないことではなく、彼らがフランス語を話せることで安心してしまっている、という事実です。「先進国のフランスの言葉を話せるから大丈夫だ」と。そしてフランスがマダガスカル経済を支えてくれていることにも安心してしまっているのです。「フランスが貿易・ビジネスの相手だから大丈夫だ」と。 しかし、これは大きな誤りであると、僕は思います。フランス語を話せるということで、マダガスカルにとってどんなメリットがあるでしょう? ビジネスの上で、フランス人とは話せます。でも、世界でフランス語を話す国は、他にどこがあるでしょうか。カナダの一部。ヨーロッパのフランス周辺。あとはほとんどが貧しいサハラ以南のアフリカ諸国です。 |
■フランスでは では逆に、フランスはマダガスカルのようなアフリカの一国を、どうみているのでしょう?貴重なビジネスのパートナーだと思っているでしょうか? マダガスカルは、つい2年前に大きな転機を迎えました。これまで26年間の長期にわたって政権に就いていた、保守的(フランス寄り)のラチラカ大統領が失脚し、リベラルなラヴェロマナナ氏が大統領の座についたのです。マダガスカルにとっては、フランスとの強すぎる結びつきから、世界全体へと関係を結んでゆく良い機会です。 まずラヴェロマナナ氏に、祝辞を送ったのはアメリカ政府でした。そして、ヨーロッパや日本といった先進諸国が続きます。フランスのシラク大統領が、祝辞を送ったのは、それからずっとずっと後のことです。 |
■他の国々は ここで、フィリピンとインドに目を向けてみましょう。 アメリカのコンピュータ会社は、電話によるヘルプサービスセンターをこれらの国に置き始めたのです。これらの国では人件費が安く、しかも国民が英語を話せます。そこに目をつけたのです。こうして、マイクロソフトやデル、IBMがセンターをこれらの地域に移転し始めました。 さきほども述べたように、僕は英語にしろアメリカ式ビジネスにしろ、アメリカのやり方が世界の主流になりつつある現状を、決して心地よく思っているわけではありません。 しかし、マダガスカルは貧しいのです。アフリカの端っこの島国で、地理的にも有利とは言えません。そういう国が、国民の生活を少しでも引き上げたいのであれば、今はがむしゃらに、果実を求めていかなければならないと思うのです。 そういうときに、フランスは決してよい手本とは思えないのです。 |
■実際は このようにして、僕は「フランスを旧宗主国として持つことの弊害仮設」を、実体験に基づいて支持するに至りました。 しかし、この仮設、専門家たちの間では、懐疑的な視線で見られています。そうですよね、それだけで一国の成長が理論付けられてしまうほど世界は単純ではないのです。 最後に、もう一度、みなさんに聞かせてください。 そして来月号では、これらの側面から、アフリカ、マダガスカルの発展について考えてみたいと思います。
2004年3月15日 |
|
Copyright(C)2003 Yusuke
Taishi All Rights Reserved.
|