●米国の炭疸事件から
2001年10月初めフロリダ州で”炭疸”の第1号として”肺炭疸患者”が発見され、11月半ばにコネティカット州で発見された”肺炭疸患者”を最後に”炭疸”の最も長い潜伏期間と言われている60日を過ぎたことで、この事件も一応終わったのではないかと思います。
●炭疸患者の種類
全期間を通じ、色々の検査で炭疸と確認された”皮膚炭疸患者”は11名、”肺炭疸患者” も11名の計22名で、”胃腸炭疸患者は0名、”皮膚炭疸”と”肺炭疸”の比率は各々50%となっています。
家畜業者が炭疸に感染すると95%またはそれ以上が”皮膚炭疸”になると言う統計、さらに米国内では”肺炭疸患者”は、20世紀の100年間に18例しか発見されていないというCDCの情報、そのうえ、”炭疸菌”が肺に吸入し易いエロゾル化に成功していると言う(どこの国かは不明)3つの情報などから、10月にフロリダ州で発見された”肺炭疸患者第1号”を米国衛生当局者に、テロの疑いを持たせたものと推測します。
●炭疸患者の死亡
11名の”皮膚炭疸患者”で死亡したものは1名もありません。
これは”皮膚炭疸”は外部からの診断が容易なため”抗菌薬”による治療もタイムリーに行われた結果、従来の情報通り死亡者がでなかったものと思われます。
”肺炭疸患者”は11名中5名死亡しています。 この病気は”抗菌薬”での治療が少しでも遅れると、患者が死亡してしまうことは以前のレポートで述べましたが、それを防ぐためには、できるだけ早く診断をすることがカギです。
表A ”肺炭疸患者”の 死亡時期 |
10月3日より 10月25日まで |
4名中3名死亡 |
死亡率: 75% |
10月26日より 11月1日まで |
6名中1名死亡 |
死亡率: 16% |
11月2日より 12月4日まで |
1名中1名死亡* |
-
|
*: 初期の診断と抗菌薬の選択が不適正
|
表Aは、事件の起きた時から12月4日までの”肺炭疸患者”の死亡を時期を区切って示したもので、”死亡率”は数が少ないため多少問題はありますが、”重要な点は事件の初期に患者の死亡する割合が高い傾向を示していることで、これが”病気の診断能力”により影響されていたのではないかと思われるからです。なお診断の詳細な指針は11月2日の「MMRW」
に初めて示されています。前にも述べたように、”肺炭疸”は米国では極めて稀な病気であるため、症状および各種の臨床検査成績の積み重ねも不足していた結果と推測します。
テロに使用される生物や化学物質は、日常見られる病気に似た症状で始まるものと、始めから特異な症状を示すものとがあり、それぞれを区別する方法を含む診断法を、テロの起きる前に作っておくことは非常に”難しい”が、”重要な作業”であり、前のレポートに述べた
ITによるシステム化が重要でしょう。
|