予防接種を考える

感染症対策

 海外赴任予定の方達が、出国までに接種を受けるワクチンの“接種プラン作り”の電話相談を始めてから今日まで、気づいた点を断片的に報告してきましたが、予防接種を系統的に考えることでより正確に理解して頂けると考え、このホームページを始めることにしました。
 
 1.予防接種で予防しようとする“感染症”とは?
 “ウイルス”“細菌”“真菌(カビ)”、または“寄生虫”のような“微生物”が、人を含む動物や植物の組織の中に侵入して起こす病気を“感染症”とよび、人間の感染症、動物の感染症、植物の感染症などと区別しています。
  以下ここでは“人間の感染症”について考えます。
 2.感染症を起こす微生物
 病原体はその種類により、“ウイルス性病原体”“細菌性病原体”“真菌性病原体”“寄生虫性病原体”とよびます。
 3.病原体が人体の組織に侵入する経路
 “ウイルス性”“細菌性”“真菌性”“寄生虫性”の各病原体には数多くの種類がありますが、病原体が人体内に侵入する経路は以下に示す9つの内の一つ、または、それ以上のこともあります。
経路1
(リスク1)
飲食物と共に口から侵入
経路2
(リスク2)
感染症患者、または病原体の侵入を受けているが症状の現れていない“キャリアー”に、接した人。“キャリアー”は他の健康人に気づかれずに病原体を感染させ、流行を拡大させる原因となることが多いものです
経路3
(リスク3)
病原体の侵入を受け症状を現している、あるいは“キャリアー”状態の動物に咬まれる、ひっかかれる、稀には動物(コウモリ)の住む洞窟などに入って感染したり、ペットを含む動物を飼ったり、取り扱う人、または野生動物の住む山中や原野で動物に接触の機会のある人

経路4
(リスク4)

動物製品、特に毛皮製品に付着している病原体の侵入を受ける、特に“炭疽”のスポアは、長い年月、皮製品に付着し生存するため、これを“虫干し”などで叩いてスポアを吸入し、“肺炭疽”を起こし死亡するおそれがあります
経路5
(リスク5)
海岸の砂や田舎の土の上を裸足で歩いて皮膚から病原体が侵入
経路6
(リスク6)
淡水浴、泉水などの水しぶきを浴びて、病原体が皮膚から体内に侵入する‘住血吸虫症“は特定の途上国に存在するが、淡水の水しぶき、冷房装置の排気口からでる水滴、稀にシャワーやジャグジーなどの水滴を吸入して起きる’レジオネラ症”は先進国のみならず途上国にも存在するようです
経路7
(リスク7)
いろいろな種類の昆虫が、いろいろな病原体を人や動物に感染させる。これら昆虫を“媒介昆虫”とよびます。媒介昆虫によって起きる感染症の主なものは後に表で示します
経路8
(リスク8)
“性行為”で感染するもので、各国からWHOに報告される衛生統計の数字は、実際の感染者の数より低いと考えられます
経路9
(リスク9)
医療を受けて感染するもので、正確な統計は無いようです
 以上の9つの感染経路を先進国、途上国に分けて考えると、「リスク1」による感染症は、途上国で発生する頻度の方が先進国より高いが、先進国では、一度発生すると多数の感染者がでる傾向があり、その理由は、先進国では食物の大量生産が発達しており、それが原因のひとつであると考えられています。
 「リスク2」による感染症は、先進国にも途上国にも多い風邪やインフルエンザのような呼吸器系感染症の他に、サハラ砂漠より南方の熱帯南アフリカで時々発生し、死亡率の非常に高いウイルス性急性出血熱(エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱など)があり、感染者を診療する人、感染者の排泄物、血液などを取り扱う人に非常に感染し易いものです。2003年末から中国で発生し、主としてアジア諸国に流行してパニックを起こしたSARSもウイルス性肺炎で「リスク2」による感染と言えますが、病原体が糞便にもでていることから、「リスク1」による感染も考えられます。この流行の初期、香港のあるアパートで飲料水が汚染して感染者が多発したとの報告があったことは注目すべきでしょう。
   一般にウイルス性病原体は、細菌性のものと比べ、人体外の環境においても抵抗力が強い傾向があり、食卓、家具などの生活用具の表面に付着し、健康な人の手などを汚染して、口や鼻腔に病原体を運ぶことも多いとされています。従って、患者を治療するクリニックは勿論のこと病院以外の場所でも、知らないうちに病原体に触れる可能性があるため、外出から帰った時は良く手を洗い、うがいをすることが大切で、病原体から身を守るための原則の一つでしょう。手洗いとうがいについては後に説明する予定です。
 「リスク3」は、主として途上国での問題と言えます。
 「リスク6」は、途上国でも先進国でも感染症にかかるリスクの一つですが、途上国でのリスクは先進国より遙かに高いようです。
 「リスク7」は、途上国、特に熱帯地域で、昆虫の媒介によるマラリアを初めとする種々の感染症があります。近頃の“地球温暖化”と“熱帯地域の拡大“が、昆虫の棲息範囲を広げる傾向を示し、昆虫媒介感染症の拡がりが心配されています。
 「リスク8」は、性行為で起きる感染症で、世界的に増加しているようです。前述のように先進国でも途上国でも、公式の報告より多くの感染者があるものと考えられます。 非公式の情報では、途上国では新しい感染者は地方に多く、慢性化した重症の感染者は都市周辺に多いと言われています。
 「リスク9」医療を受けて感染した人達についての情報が殆どないことは前述したとおりです。
以上9つのリスクを私たちの日常生活習慣から考えると、「飲食と性行為」は他より頻度が高いと考えられます。
    感染症対策
感染症対策としては、「予防接種」「抗微生物薬」の使用、および「病原体が体内に侵入するリスクを防ぐ」などがあります。
「予防接種」

 予防接種は、1種類の病原体に対してのみ免疫を与えることができます。例えば破傷風ワクチンは、破傷風に対して免疫を与えることはできますが、他種の感染症にたいして免疫を与えることはできません。三種混合ワクチン(DTP)は、ジフテリアトキソイド(D)、破傷風トキソイド(T)、および百日咳菌(P)あるいは百日咳成分(aP)の3種のワクチンが混合されたもので、三種の感染症の予防が可能になります。

「抗微生物薬」

 微生物の侵入で起きる感染症の治療や予防に使用する薬物を、以前は「抗生物質」または「抗生剤」とよんでいましたが、現在では「抗ウイルス薬」「抗(細)菌薬」「抗真菌薬」「抗寄生虫薬」などと分けて呼びます。
 1種類の“抗微生物薬”が、1種類以上の病原微生物に対して効果を期待できることもあります。抗微生物薬は、製造初期には効果があっても、長い期間に病原体が抵抗性となり効果が低下し、また新しい抗微生物薬が必要となり、”イタチゴッコ“になる傾向があります。

「病原体が体内に侵入するリスクを防ぐ」
 
  先に述べた9つの侵入経路の対策で、詳細は「海外で健康にくらす」渡辺義一著 キョーハン・ブックス 2000年の 資料1,2,および3を参照してください。
2005年3月8日

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「海外で健康にくらす」
予防接種、感染症への対応

OMC
オーハーシーズ・メディカル・
コンサルタンツ代表
医学博士
渡辺 義一
 
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制作:海外生活(株)