マラリアについて


 昆虫に媒介される感染症の中で、マラリアの感染者は世界中で3〜5億人、毎年、約100万人が死亡すると推定され、世界的健康問題であると言われております。

 カの媒介による感染のほかに、マラリアの病原体を含む血液(これは実際には判らない)の輸血、臓器移植、薬物の回し刺しによる注射器から、またはマラリアに感染している母親から胎盤を通して新生児に感染することもあり、感染経路は昆虫から感染するリスク7の他に、医療を受けて感染するリスク9もあり得ることになります。

マラリアの症状とは?

 4種類の病原原虫のどれか1種類で起きるマラリアは、発熱と寒気、頭痛が起き、悪性の病原体に感染して起きる熱帯熱マラリアでは、頭痛、筋肉痛、貧血、黄疸、時には脳症状、腎臓の機能不全などを起こし、治療が遅れると死亡する恐れがあります。熱症状は、他の病原体が原因で起きる敗血症や、後に述べる内臓リーシュマニア症(別名カラアザール)に似て、一日の中に1℃以上の高低差のある熱型を示します(図参照↓)。

 三日熱マラリアの病原原虫で起きる三日熱マラリアは、高熱を出す2日くらい前に38℃台の発熱を示すことがあり、続いて激しい寒気とふるえを訴え、40℃台の発熱に続き、滝のような発汗と共に解熱して眠り込みます。このような高熱発作を2日起きに繰り返します。三日熱マラリアによく似た熱発作を4日ごとに繰り返すのが、四日熱マラリアですが、感染者はあまり多くないようです。

マラリアの情報を得るweb-site
     Travelers' Health | CDC>>
     Global Malaria Programme>>

熱型図

 マラリアのうち、最も危険な熱帯熱マラリアは、Falciparum malaria、三日熱マラリアはVivax malaria とよぶことがあります。
  三日熱マラリアと四日熱マラリアは、健康な成人では、まず命に危険を及ぼすことはありませんが、2歳以下の幼児では死亡するおそれがあるため、マラリアの流行地に同伴することは避けたいものです。

マラリアによる被害を防ぐためには、

  1. 旅行または赴任先のマラリアについての最新情報を得ること
  2. もしマラリアが存在すれば、その地域で流行しているマラリアに対して必要な予防内服薬と、万一感染した場合の治療薬を用意し、それらの薬の使用法を分かり易く書いた説明書を携行すること
  3. マラリアを媒介するハマダラカに刺されないための衣類、虫除け薬(InsectRepellent)についての説明書を入手する。この際、薬の内容および濃度が明記してあるものを求める。

 海外に赴任する一般の人にとって、以上三つの準備は、先に述べたWHOやCDCをインターネットで調べ、情報を得ることは困難であるかも知れないと思います。従って途上国に人を出す企業または機関の保健・医療の責任者は、以上の3点について分かり易いガイドを作り、必要な薬品類と共に出国前に手渡す必要があるでしょう。これにより入国早々、マラリアの被害にあうことを防ぐことができると考えます。

HealthInformationforinternationalTravel 2005−2006 によると、
住民の二人に一人が熱帯熱マラリアに感染していると言われる熱帯アフリカに行ったアメリカ人は、他のマラリア地域に行ったアメリカ人より、熱帯熱マラリアに感染する割合が多いと報じられております。マラリア情報を常に与え続けている米国においてもこのような情況におかれております。

マラリアを媒介するハマダラカやその他のカに刺されない工夫

 ハマダラカは日暮れから明け方にかけて活動し、人にマラリアを感染させます。
  後に述べるリーシュマニア症を媒介するサシチョウバエ(別名スナバエ)は、夕方人を刺して病気を媒介します。日本脳炎や西ナイル熱を媒介するイエカは、夜中に人を刺して病気を媒介します。即ち、これらの媒介昆虫は日暮れから夜明けにかけて活動するので、この時間帯には、金網で囲まれ、空調の良くきいた部屋にいることが望ましいと言われます。然し多くの昆虫の中には、昼も夜も活動するものもあるので、これを防ぐための方策として、衣類と虫除け薬の二つが重要なポイントになります。

1 衣類について白色でだぶだぶの厚手木綿の上着とズボンを着用する
ハマダラカは暗い色を好むと言われていること、だぶだぶの衣類は昆虫が人を刺し難いこと、木綿は汗を吸収し、蒸発を促進すること、更に、虫除け薬を吸着させ易いこと、また白色の衣類は夜間外出の際、車の運転者が見分け易いので、自動車事故の防止に役立つことなどです。

2 虫除け薬虫除け薬は昆虫忌避剤 (Insect Repellent) とよばれ、近頃、新しい製品が現れていますが、それらについての評価は十分でなく、特に副作用については十分な報告がないので、現在まで長く使用されているDEET とPermethrin の二種類の昆虫忌避剤について説明いたします。

DEET について
DEETは外部にでている皮膚に直接スプレーするか、または衣類にスプレーして カ、ハエ、ダニ、ノミ類などからの被害を防ぎます。DEETは少なくとも30〜70%含むものが有効であるといわれます。但し皮膚にスプレーした場合、約10〜15%が体内に吸収されるため、濃度の高いDEETを度々使用すると、肘の内側に水疱がでたり、幼児は稀に、脳炎症状が現れるという報告もあるので、このような副作用を考えるとDEETは衣類にスプレーする方が安全と言えるでしょう。尚、日本国内では、DEETを10%程度含むものが入手できるようです。
DEETを使用する場合は以下の注意が大切であると、HIIT2005―2006に述べています。

  • 締め切った場所でスプレーしない。風上から風下に向かってスプレーする。この際シュッ と吹き付ける程度でよい
  • 怪我や傷のある部位にはスプレーしない
  • 顔には直接スプレーせず、手のひらにスプレーして、のばしてからつける
  • 10歳以下の小児にはスプレーせず、親が自分の手のひらでのばして小児につける、小児の手のひらにつけない(DEETは口から入ると毒性が強い)
  • DEETを必要としなくなった場合、DEETをつけた皮膚を石けんと水で良く洗い流す
  • 海外旅行に行く場合は、旅行先で 蚊帳やベッドのシーツなどにスプレーする

Permethrin について
Permethrinはゆっくりと効果のでる殺虫剤で、カ、ダニ その他の昆虫忌避剤として使用され、衣類、蚊帳、ベッド シーツ、テントなどに0.5%を含むものをスプレーします。衣類にスプレーしても特に副作用はないと言われ、一回スプレーしたものは5回くらい洗濯をしても効果を失わないと報告されていますが、この点については使用者自身が情報を鵜呑みにせず注意することが大切でしょう。洗剤の種類によっては忌避剤の効果に影響があることもあり、Washing水洗いを意味する可能性もあります。

DEET,Permethrin の スプレー法

 最近の報告にはスプレー法の詳細を示すものはないようで、蚊帳、ベッド シーツなどには軽くスプレーするとあります。
1990年代に米国CDCで示している方法は以下のようです。

Permethrin の 使用法

カに対するスプレー法: 

  1. 上着は白色で自分のサイズより大きめの長袖、少し長めのズボン、手ぬぐいを一本用意する。衣類は洗剤が残らないようによく水洗いし、よく絞る。生乾きしたところで、次に移る。
  2. 乾いたタオルでマスクし、スプレーする衣服をつるし、風上からPermethrinをスプレーする
  3. 衣服から約30cm 離してスプレーするが、その際、上着、ズボンの前側と後側の両面に合計2分間スプレーを続ける
  4. 手ぬぐいは鉢巻き出来るように約8cmの幅に折り畳み、鉢巻きの外側になる面に20〜30秒スプレーする。
  5. スプレーしたものを日陰で干してから着用する。手ぬぐいは前頭部で結ぶ

ダニに対するスプレー法:

  1. カに対する方法と手ぬぐい以外は同じ
  2. 水洗いしたソックスの片方ずつ30秒スプレーする
  3. 靴は片方ずつ15秒スプレーする
  4. 上着の袖口、ズボンの裾を約5cm折り返し、約15秒ずつスプレーし乾かす

Permethrin の副作用

 DEET に比べ、皮膚から吸収される量がはるかに少なく、吸収されたものも人体内で容易に分解されます。皮膚のむくみ、稀に発赤などが起きますが重大な副作用は報告されてないようです。

蚊取り線香 (第三の虫除け法)

 蚊取り線香(Mosquito Coil)による虫除け法で、英国の専門家が勧めている虫除け法の一つです。日本でも植木屋さんや魚釣りをする人たちが利用しています。この方法には、携帯用蚊取り線香皿が必要で薬局で入手できます。この皿の表側には火をつけた蚊取り線香をいれ、裏側には予備の線香が2巻入ります。これにはフックがついており容易に腰に下げられます。一巻の線香が燃え尽きるのに約6〜7時間を要するので、計3巻の線香で18から21時間虫除けが可能ですが、海外赴任者の経験によると途上国で入手したものは効果の劣るものがあり、日本製のほうが信用できるとのことです。但し、この方法は各人が線香皿を下げることが必要です。一人で数人の虫除けをすることは不可能です。また雨の降っている場合は、皿をビニールでカバーし、下から煙がでるような工夫が必要です。DEET やPermethrinなどをスプレーした衣類と組み合わせで使用すれば、更に強力な虫除け法になるでしょう。

クロロキンChloroquine)の使用法

  • クロロキンに抵抗性のある熱帯熱マラリア(FalciparumMalaria)の存在が報じられている地域に行く場合は、ドキシサイクリン(Doxycyclin)による予防内服を考えます。クロロキンは三日熱および四日熱マラリアの大部分に予防内服として使用できる他、熱帯熱マラリアの一部にも予防内服として使用できます。 以前から予防内服として使われているクロロキンとプログワニール(Proguanil)の併用予防内服法について、HIIT2005−2006 ではその効果を認めていないようです。
  • クロロキンによる予防内服法マラリア流行地にはいる1〜2週前から内服を始めます。以後週に1回、同じ時間に内服を続け、マラリア流行地を出てからも週1回の内服を4週間続けます
    1回の予防内服量;
    成人; 1錠中100mg base を含むものを3錠(計300mg base)
    小児; 体重1kgごとに5mg base
    例えば、 体重20kgの小児では100mg base を内服します
    この薬は苦いので、小児には薬を粉末にし、ジャムや蜂蜜と混ぜて与えます
  • 抗マラリア薬の副作用と禁忌

クロロキン(Chloroquine)またはChloroquine Sulfateの副作用

胃腸障害、頭痛、めまい、ものが二重に見える
Chloroquineの内服量が総計100gに達すると網膜炎を起こすことがあるので、総計50gに達したあとは、網膜検査を繰り返し行うことが大切です。また皮膚がかゆくなることも報告されています
マラリアに感染し、発病した時の治療には使用できません

ドキシサイクリン(Doxycycline)の使用法

  • 行き先にクロロキン抵抗性の熱帯熱マラリアが存在していれば、ドキシサイクリンで予防内服します
  • 以前から熱帯熱マラリアの予防内服に使用されていたメフロキンに対し抵抗性のある熱帯熱マラリアが、タイのカンボディアとミャンマーとの国境地域に存在すると報告されていますが、これに対する予防内服にもドキシサイクリンが有効であるといわれています
  • ドキシサイクリンは妊産婦、および授乳中の女性には使用できません
  • ドキシサイクリンの予防内服法;マラリア流行地に入る1〜2日前の夕方から内服を始め、以後、毎夕、同じ時間に(夕食と共に)300〜400mlの水で一息に飲み下し、食道の粘膜に薬が残って吐き気が起こらないようにすることが大切です
    マラリア流行地から出ても、毎夕の内服を4週間続ける必要があります。
    日本では50mgと100mgの錠剤を入手することができます。(処方箋が必要)ドキシサイクリン50mgの錠剤を使用する。
    1回の予防内服量;
    成人; 100mg を毎夕1回
    小児; 8歳またはそれ以上の年齢では、体重1kgにつき2mgのドキシサイクリンを内服しますが、小児は1回量が100mgを越えないようにします。
    下記の量を目安に毎夕一回服用します。
    23kg〜35kg  1錠 (50mg)
    35kg〜45kg  1.5錠(75mg)
    45kg 以上    2.0錠(100mg)

    ; ドキシサイクリン以外のテトラサイクリン(Tetracycline)系のもので、例えば、ミノサイクリン(Minocycline)などはドキシサイクリン同様の予防効果は証明されていないので使用できません。

ドキシサイクリン(Doxycycline)副作用

この薬は紫外線の感受性を増すため、日光にあたるとひどい日焼けを起こすため、夕方、日が暮れてから服用し、薬の血中濃度の最も高い時間が夜間になるように調節します。ドキシサイクリンを内服している女性では膣に、また男性、女性共に、腸内にカビ類による感染を起こすことがあります。ドキシサイクリンは他のテトラサイクリンと同様に、多くの細菌性感染症の治療にも効果があるので、腸チフスやコレラなどの生ワクチンを接種する際は、少なくとも24時間の間隔をあける必要があります
マラリアに感染し、発病したときの治療には使用できません

万一マラリアに感染し、発病の疑いのある場合の自己治療

  • 血液を採取し、マラリアの病原体の確認をしてもらいます
    その際、現地の顕微鏡診断技師(Microscopist)または現地医師に相談します。それが不可能な場合は、Malaroneによる自己治療を始めます。もし熱帯熱マラリアに感染している場合には治療が遅れると命に関わる恐れがあります
  • Maraloneによる自己治療法
    成人: 成人用錠剤を毎日4錠、3日間内服します
    小児: 体重5kg 以下の小児には使用できません
    体重5〜8kg: 小児用錠剤を2錠、3日間内服
    体重9〜10kg: 小児用錠剤3錠、3日間内服
    体重11〜20kg: 成人用錠剤を1錠、3日間内服
    体重21〜30kg: 成人用錠剤を2錠、3日間内服
    腎臓機能が低下している人には使用できません
  • マラロンの副作用 腹痛、吐き気、頭痛などで

妊婦と幼児とマラリア

妊婦はマラリア流行地に行かないことが望ましいのですが、どうしても行かなければならない場合には以下の点を知っていることが大事です

  • 妊婦がマラリアに感染すると、たとえ三日熱マラリアでも死亡することがある
  • 死亡に至らなくても、流産、死産、胎児の発育不良などのトラブルが起きやすい
  • マラリアの予防はカに刺されない工夫予防内服の二つが重要であることは前述しましたが、予防内服に最も有効なDoxycyclineを妊婦は内服できないため、蚊に刺されない工夫を心がけることが重要なポイントになります。蚊帳、昆虫忌避薬住居の設備に注意することなど、他の健康な人に比べてハンディキャップを持っていることになります。また、妊娠していない女性がマラリア予防内服を行っている場合、マラリア流行地を出てから、妊娠可能になるまでの期間は、Chloroquine,Mefloquine を内服していた場合は3ヶ月、Doxycycline の場合は7日間と言われております
  • 幼児とマラリア
    成人では生命に関わることが殆どない三日熱マラリアでも、2歳以下の幼児では命に危険があることを前述しましたが、もし幼児が熱帯熱マラリアに感染すると、はっきりした熱症状も示さず、病気が急速に進み、死亡するおそれがあるため、診断して緊急治療を要する非常事態となります
  • 従って、マラリアの診断と治療が容易に受けられない地方に幼児を同伴することは、リスクを伴うことを良く知った上で決める必要があります
2006年9月2日
  風土病はその常在地だけにとどまるとは限らない
  風土病の一つである“マラリア”
  ペスト
  デング熱
  エイズ
1971年から2004年までの感染症についてのトピックス
“出血熱”の種類 感染経路、死亡率及び分布
肝炎
ワクチンについての2つの見方

「海外で健康にくらす」
予防接種、感染症への対応

OMC
オーハーシーズ・メディカル・
コンサルタンツ代表
医学博士
渡辺 義一
 
海外生活必需品
海外生活に関わるあらゆる
サービスや 海外生活必需品をを
網羅した総合窓口


制作:海外生活(株)