表A―1に示したウイルス性感染症への対応の中に,A型肝炎、B型肝炎,C型肝炎およびE型肝炎など4種のウイルス性肝炎をあげてあります。
ウイルス性肝炎は海外赴任者のみならず日本国内に住む人たちにとっても重要な感染症と考えます。
- ウイルス性肝炎は飲食物から感染するA型肝炎とE型肝炎
- 血液に汚染された医療器具、性行為その他で感染することのあるB型肝炎、C型肝炎、など2つのグループに大別されます。
A型肝炎について
感染経路:飲食物から(リスク1) 感染者に接して(リスク2)
病気の経過:突然発熱、倦怠感、吐き気、食欲不振、腹痛、尿の色が濃くなり、3日目くらいに黄疸(白目が黄色)になる。6歳以下では症状が現れないか、軽いが、40歳代での死亡率は2%、60歳以上では4%となる。 症状が現れてからでは有効な治療薬は現存しません。病後に慢性肝炎になることはありませんが、平常の健康を取り戻すのには約6ヶ月かかることもあります。16歳前後では,A型肝炎ウイルスに対する免疫抗体を持っている場合が少なくないので、予防接種を行う前に、免疫抗体を調べることを勧める意見もあります(WHO)。 A型肝炎は魚貝類を好む人が感染し易いと言う報告もあります。特に河口付近の海底にいる魚貝類には注意を要します。
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E型肝炎について
感染経路:飲食物から、特に飲み水による感染者の多発が報じられています(リスク1)
病気の経過:A型肝炎のように急性の経過をとり、症状では区別が難しいようです。若い人ではA型肝炎より症状が激しいようで、特に妊婦の死亡率は15%〜25%と大変高いと言われています。 最近、米国で.E型肝炎を確認する検査用セットが開発されましたので、より簡単に判断できるようになると思われます。 E型肝炎が発病してから使用できる治療薬は現在ありません。
E型肝炎は、アジア、メキシコ、中東、北アフリカ、熱帯アフリカなどから報告されております。
予防接種:最近開発されたようですが、まだ一般の使用には至っておりません。
慢性肝炎とは:B型肝炎,D型肝炎、およびC型肝炎などに感染した人の肝臓の中に病原ウイルスが残って、増殖を続けている状態をよびます。慢性肝炎では以下のようなトラブルが起きてきます。
- 肝臓内で増殖した病原ウイルスは、肝細胞を破壊し、肝細胞が元来含んでいる酵素の「GPT」、「GOT」を血流中に放出させるため、血液中にこれらの物質(酵素)の量が増加します。
- 肝臓で増加したウイルスが、血流中にはいると、「リンパ液」、時には「唾」や「精液」の中に入ってウイルスの感染原となります。
- ウイルスで破壊された肝細胞は、暫くは肝細胞中の遺伝因子で肝細胞を再生していますが、ウイルスによる破壊が進むと、硬い線維組織が肝細胞にとって代わり、肝硬変の傾向を示してきます。
- 肝細胞を再生させる遺伝因子にウイルスが迷入した結果、肝細胞の代わりに、「がん細胞」を作るようになると言う説明があります。ウイルス性慢性肝炎患者の多くが、
20〜30年後に肝硬変、または肝がんで死亡するという統計がでております。
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B型肝炎について
B型肝炎は新生児が最初に予防接種を受けたい感染症
B型肝炎の病原ウイルスは、B型肝炎の慢性肝炎患者の肝臓内で増殖し、血管をとうして、血液、リンパ液、精液、唾などが病原ウイルスを含み、感染の原因となります。
感染経路:3つの経路があります
- 日常の仕事、学校内などでの活動において、慢性肝炎患者との接触(リスク2)による感染です
- 慢性肝炎患者との性行為(リスク8)による感染です
- 輸血や慢性肝炎患者の血液で汚染され、完全消毒されていない状態の医療器具で医療を受けた(リスク9)ことによる感染です。この他に、ピアシング用具、入れ墨などがあり、医療器具と同様に、使用前に消毒薬、ガス、高圧滅菌消毒などが必要です。
100℃の煮沸滅菌ではB型肝炎ウイルスの殺菌は出来ません。 また,B型肝炎の慢性患者は血液を採取して検査をしない限り、外見上では分かりません
病気の経過:A型肝炎と同様に、発熱、倦怠感、食欲不振、腹部の痛み、吐き気など、2,3日後に黄疸をおこしてくる場合や、全く症状を示さない場合などいろいろですが、感染者の年齢が低いほど症状は軽い傾向があるようです。感染後の有効な治療薬はありません。B型肝炎は慢性肝炎になりやすく、感染時の年齢が低いほど慢性肝炎になる確率が高いことは、下図 B型肝炎に感染した患者がキャリアになる割合と患者の年(月)齢に示してあります。統計によると慢性肝炎になった人のうち、約25%は20〜30年後に肝硬変か肝臓がんで死亡するとなっているため,B型肝炎の予防接種は生後なるべく早い時期に行う必要があります。
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D型肝炎について
二種類の病原ウイルスの二重感染でおきるD型肝炎
B型肝炎の病原ウイルスとデルタ(Delta)肝炎ウイルスが同時に、あるいは前後して感染したものをD型肝炎とよびます。
デルタ肝炎ウイルスの確認診断は免疫抗体を調べて行いますが、この診断を行う検査室は先進国の一部に限られています。然し、D型肝炎は世界中に分布しているようです。B型肝炎とデルタ肝炎が同時に感染すると、A型肝炎と似た症状をおこしますが、後にB型肝炎の慢性肝炎になるといわれます。 B型肝炎の慢性肝炎患者が、後にデルタ肝炎ウイルスに感染すると、症状の激しい劇症肝炎になり死亡することが多いといわれます。D型肝炎を予防するには、B型肝炎の予防接種を受けて、B型肝炎に感染しないようにすることが大切です。
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C型肝炎について
最も慢性肝炎になりやすいC型肝炎
C型肝炎の感染経路: 血液に汚染された医療器具および輸血などの医療行為による感染(リスク9)が多い。
病気の経過: C型肝炎に感染しても症状を示さないか、軽い症状にも拘わらず、約80%の感染者が慢性肝炎となり、そのうち約60〜70%は肝硬変または肝臓がんになるといわれます(HIIT2005―2006)。つまりC型肝炎に感染したときの症状は軽いが、後が怖いということです。予防接種は現在ありませんが、最近、病原ウイルスを培養できるようなので、おそらく今後10年以内には予防接種が実施されるようになるのではないかと期待しております。
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慢性肝炎の治療
B型肝炎とC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎の治療
最近になり、抗ウイルス薬と、ウイルスが産生する蛋白質の一種による治療が、肝臓内の病原ウイルスを消滅させ、慢性肝炎を完全に治療することができると報告されていますが、約一年の治療期間と高額の費用を要し、副作用もあると報告されています。詳細は分かりません。
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世界分布
A型,B型、C型肝炎の世界分布
3種類の肝炎の分布地図は2005年WHOがInternationalTravel and Health
に示したもので、黒色の地域は肝炎に感染する可能性が高い地域と考えます。
然し、その他の地域は安全と考えずに予防接種を受けておくことが海外旅行者にとっての安全策です。これらの病原ウイルスを持っている人は世界中何処にでもいます
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肝炎についてのアピール
これまでに述べたように、B型肝炎,C型肝炎に感染すると、後に、慢性肝炎という生命に危険を及ぼすおそれのある状態になります。WHOは1974年にB型肝炎の予防接種は世界中の国々が実施すべきであるという勧告を出し、以来、先進国、途上国の多くが予防接種を日常の予防接種プランに加えています。
米国では早くから、B型肝炎の予防接種を生後1週以内の新生児から始めており,A型肝炎の予防接種は生後24週から始めています。2003年の衛生統計で、A型肝炎の新患者が61,000人、B型肝炎新患者が73,000人発見されたため、2005年にはCDCが肝炎に気を付けようと言うアピールをだし、予防接種の徹底をより強調しています。
米国へ赴任する家族の方達が注意すべき点は、米国には途上国から入国している家族も多く、それらの家族の中には、すでに本国でB型肝炎に感染し、外見からは分からない慢性肝炎になっている小児や大人もいる可能性が高い為、米国の幼稚園以上の教育機関に入学する場合殆どの州で、B型肝炎の予防接種を受けていると言うことが、入園、入学条件の一つになっています。
尚,WHOの予防接種拡大計画(EPI)によると、B型肝炎の予防接種を2回のみ接種した場合、約20%は完全な免疫にならず、3回接種して初めて100%に近い免疫になります。3回目の接種6ヶ月後に、4回目の接種を行うと10年から15年間、免疫が続くと報告しています。接種方法の詳細は後に予防接種で述べます。
B型肝炎の慢性肝炎患者に、B型肝炎の予防接種を行っても治癒しません。 |