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今回は予防接種に使用するワクチン類と抗微生物薬類の持つ特性と、その利点と限界について説明いたします。
感染症と免疫抗体
私達が感染症に感染すると体内で、侵入してきた病原体の増殖をおさえるための、一種の蛋白質を作るようになります。これを免疫抗体(antibody)とよびます。
免疫抗体は発病後1週間以内に感染者の血液から証明されることが多く、しだいにその量を増していくので、発病時と2,3週後の免疫抗体値を比べて免疫学的診断を行う場合があります。1種類の感染症で産生した免疫抗体は、その感染症に対してのみ感染を防ぎますが、他の感染症の発病を抑える力は全くありません。例えば、麻疹(はしか)に感染して作られた麻疹免疫抗体を持つ人は、麻疹に対してだけ抵抗性を持っていますが、他の感染症には抵抗性はありません。例外は、破傷風に感染し幸い治っても、破傷風の免疫抗体を持っていないので、破傷風ワクチン(トキソイド)による予防接種のみが、この感染症の唯一の予防法です。予防接種に用いる各ワクチンは、自然感染と同様、目標とする感染症以外の感染症を予防することはできません。
1 予防接種に使用するワクチン
2007年現在、世界で使用されているワクチン類は26種、今後3,4年で新しく使用されると思われるものを加えると30種類になると思われます。
- BCG
- ジフテリア(トキソイド)
- 破傷風(トキソイド)
- 百日咳
- 麻しん
- おたふくかぜ
- 風疹
- 水疱瘡(水痘)
- B型肝炎
- B型インフルエンザ菌
- 小児まひ
- インフルエンザ
- 肺炎球菌
- ペスト
- ずいまく球菌
- A型肝炎
- 狂犬病
- 日本脳炎
- ダニ脳炎
- 黄熱
- レプトスピラ
- 天然痘
- コレラ
- 腸チフス
- Papilloma
- ROTA
1種類のワクチンは1種類の感染症しか予防できませんので、3,4年後には30種類の感染症が予防できるようになると予想されます。感染症の原因となる150種類のウイルス性、細菌性、真菌性(カビ)および寄生虫性病原体の約5分の1を予防できることになります。
感染症の大部分は予防接種では予防できないことがわかりますが、特に真菌性および寄生虫性感染症の殆どが、マラリアを含み予防接種では予防できないことが分かります。
先に述べたように1種類のワクチンは1種類の感染症しか予防できないので、幼児が予防に必要な破傷風、百日咳、ジフテリアを予防するためには、ジフテリアワクチン(ジフテリアトキソイド)に破傷風ワクチン(破傷風トキソイド)および百日咳ワクチンを混ぜ合わせた三種混合ワクチン(DTPまたはDTaP)の接種を必要とします。
三種混合ワクチンにB型肝炎ワクチンと不活化小児まひワクチン(IPV)を加えた五種混合ワクチンを米国では幼児に接種しています。これらワクチン類は、予め各ワクチンに決められている接種の時期(月齢または年齢)、接種方法(内服、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射など)、接種回数および接種の間隔などを守れば、5,6年から10年、それ以上の長期間、病原体に対する免疫を与えるため、目標とする感染症をほぼ撲滅することも可能になります。現在、世界規模でWHOが勧めている小児まひとB型肝炎の撲滅も可能になると思います。
2 抗微生物薬による感染症への対応
ワクチンによる予防接種と共に、抗微生物薬による予防と治療は感染症への対応策として重要です。以下抗微生物薬(Antimicrobials)による予防と治療について述べます。
- 抗微生物薬にはペニシリンやストレプトマイシンのように、微生物に作らせる抗生物質(Antibiotics)とよぶものと、化学的に合成されたドキシサイクリンのようなものを含み、抗ウイルス薬、抗細菌薬、抗真菌薬(カビ)および抗寄生虫薬の4グループに分けられており、このうち抗細菌薬の種類が最も多い。何れも有効期間が短いので、繰り返し使用する必要があります。
- ワクチン類は接種を受けた人の体内で免疫抗体を作り、侵入してきた病原体の増殖を抑えて発病を防ぐのに対し、抗微生物薬は体内に侵入してきた病原体に直接作用して増殖を抑え、その間に侵入してきた病原体に対する免疫抗体の増加を待って回復を図ることになります。抗微生物薬は直接免疫抗体を産生するわけではありません。
- 抗微生物薬を予防目的に使用しているのはマラリアに対するものだけで、そのためには、マラリア流行地にはいる前から薬をのみ始め、侵入してきたマラリアの病原体を直ちに制圧する必要があります(マラリアの項参照)。
2007年8月20日 |