感染症の種類は数多くありますが、その中で、ある一定の地域に定着して流行を繰り返すものに“風土病”とよばれるものがあります。“風土病”はその存在する地域のなかで、ある時は大きな流行を、ある時は殆ど流行を起こさないか、小さな流行で済むこともある、と言うように流行に波があります。その理由は、大きな流行の時には、住民の多くが感染して免疫となり、この免疫が時間と共に低下してくると、また風土病に感染し易くなる為であると説明されています。
風土病の代表とも言えるものに、“マラリア”と“コレラ”があり、ここでも流行の波が認められます。 |
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風土病はその常在地だけにとどまるとは限らない
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“コレラ”はその流行の歴史が明らかになっている1800年代の初期から現在に至るまで、インドの西ベンガル地方の風土病と考えられており、1817年以来、20年から30年の間隔で大きな流行をおこし、この大流行の度に世界各国に波及して、6回にも及ぶ世界的大流行がおきています。この西ベンガルの大流行は、多くの住民が集まる祭りが原因であったといわれています。
同じコレラ菌の一種である“エルトール・コレラ菌”は1950年代の初め、エジプトのシナイ半島のトール検疫所で発見されましたが、いつのまにかインドネシアのセレベス島の風土病になっていましたが、1961年日本を含む東アジア諸国に侵入し、国によっては大流行を起こしました。この流行の原因はあきらかではありませんが、多分漁民が一役かっているのではないかと想像されています。
このエルトール・コレラの流行はその後西方に及び、1971年には西アフリカ諸国に達し、その20年後にはペルーを初めとした熱帯南アメリカ諸国にも現れ、第7次世界的流行になりました。衛生状態の良い日本、米国、ヨーロッパ諸国では、国外からの入国者の中にコレラ感染者が発見されましたが、国内での大きな流行はおきていません。
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風土病の一つである“マラリア”
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飲食物で感染するコレラ(リスク1)と異なり、マラリアが風土病となっている地域で、既に病原体を体内に持っている住民、即ちキャリアーと、病原体を人から人へと感染(媒介)させる カ(ハマダラカ)が共存していて、先に述べたような流行の波を繰り返しています。マラリアがその常在地から新しい地域で流行を起こすのは、多くの場合マラリアの常在地と国境を接する隣国です。これは、国境を越えて往来する商人、親類縁者、密輸業者ばかりでなく、既にマラリア病原体を持つハマダラカ、媒介するハマダラカが国境の制約を受けないからです。
第二次世界大戦の終戦直後に、関西地方でマラリアの小さい流行が起きましたが、これは南方でキャリアーになった多くの人たちが帰国し、日本に以前からいるハマダラカがその流行を助けたと説明されています。また海外の先進国では、外国に旅行したことのない空港近隣の人たちがマラリアを発病しており、これを“エアーポート・マラリア”と呼んでおります。これは熱帯地方から帰ってきた航空機が、現地から、マラリアの病原体を持つハマダラカを運びこんだ為とされています。これに関連して最近WHOは“航空機内部の殺虫”について、先進国の一部が行っている対応を「International travel and health (2005年)」の中で述べています。地球温暖化が、熱帯病を媒介する昆虫の増加を助けていることは前にも述べましたが、これと直接の関係があるか否かは明らかではありません。近年、朝鮮半島(韓国、北朝鮮)の一部から“三日熱マラリア”が報告されており、カに刺されないよう注意がだされています。
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ペスト
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中世期に、ヨーロッパの人口の3分の1が死亡したと伝えられている“ペスト”は現在でも米国(デス・ヴァレイ)、南米、アフリカ大陸、マダガスカル、アジア北部などの各地域に風土病として存在し、時々付近から感染者が報告されています。
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2005年3月20日 |